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「郁斗はさ、なんで汐見さんじゃだめなの? モテたいんでしょ?」
弁当を食べながら陸が問う。
「えっだって汐見さんは誰でもいいんだろ、それって全然嬉しくない」
「郁斗のモテたい、だって、誰でもいいんじゃないの?」
「だから俺は誰でもいいわけじゃない……」
「でも、他の女の子から告白されたらもうちょっと考えるんじゃない?」
他の女の子から告白されたら……言われて想像してみる。確かに、嬉しいし付き合うことをかなり前向きに考える、ような気がする。
「汐見さん以外なら誰でもいいってこと?」
陸にそう言われて、確かにちょっと近いものはあるかもしれない、と思った。
同時に、じゃあなぜ「汐見さんだけがダメなのか」。
誰にでも告白するから……?
「汐見さんだからダメっていうほど、郁斗は汐見さんのこと知らないんじゃない? そもそも外見が好みじゃないとか?」
「いや、それは……」
知那はたくさん振られてるけど、外見がどうこうというわけではなかった。現に最初の告白は普通に成功している。
細身で小柄、ぱっちりとした目元に、ショートボブがよく似合ってる。化粧のことはよくわからないけど、濃い印象もない。
目立つほどの美人というほどでもないけど、外見は普通に可愛い、と郁斗は思う。
もし知那が「誰にでも告白する人」じゃなかったら、おそらく郁斗は普通に喜んで、少し考えて、もしかしたら付き合っていたかもしれないと思う。というか、その可能性が高いのではないかとすら思う。
「陸は、俺が汐見さんと付き合ったらいいと思ってるのか?」
「ああ、いや、そうじゃなくて」
陸がなぜそこまで知那をかばうような発言をするのか、郁斗には理解ができなかった。
クラスメートの友人たちも、「あいつはヤバイ」と言ってる。郁斗もそう思っている。陸は違うのだろうか。
「汐見さんって、みんなが言うほどヤバい子なのかなって思っただけ。俺は正直、そこまで彼女を知らないし」
それは、郁斗だって同じだ。
「でも、誰にでも告白する女って、普通じゃないだろ……」
陸に応えるというよりは、自分で確認するようにつぶやいた。
陸は「まあ、郁斗が思うようにしたらいいよ」と、散々悩ませるようなことを言っておいて、無責任な言葉で締めてくれた。
おかげで郁斗はその日の夜、「誰にでも告白しない汐見知那」となら付き合っていたかもしれないという思いに悩まされていた。
「そんなの当たり前だろ」という気持ちと、「そんなことで変わるの?」という相反する気持ちが郁斗を責める。そして知那のにこにこした笑顔と、恥ずかしげに走り去っていた彼女の顔が交互に浮かび、郁斗はベッドで枕に唸った。
いったい、汐見知那はどういう女の子なのか。
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