モテたい彼と依存する彼女

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「おまえが汐見に告白されたやつ?」  放課後、ちょうど郁斗は陸と直哉と三人で教室にいた。クラスメートに何やら聞いて入ってきた男は、「村田武」と名乗った。郁斗は、どこかで聞いた名前のような気がしたが、思い出せなかった。 「……そうだけど、なに?」 「あいつはやめとけよ」  唐突なその物言いに、郁斗は嫌な感じがした。言い方も、ちょっと見下ろしたその目線も、瞬時に「好きになれないヤツ」だと思う。 「は? いきなりなんだよ」  横から直哉がちょっと好戦的な口調で聞く。 「え、なにお前ら汐見に気があんの?」 「あんた誰」  陸が冷たく問う。 「俺? 俺は一年の時告白されて付き合ってた……」 「……あぁ」  そう言われて、村田という名前に思い当たる。汐見知那が最初に告白して付き合ったやつの名前だ。 「おまえ、もしかして汐見と付き合うつもりあんの? なんか仲良くなってるらしいじゃん、ほんとやめとけよ」 「だから、なんなの、何が言いたいんだよ」  陸がイラついた口調で問う。郁斗もそうだが、陸とは決定的に合わなさそうなタイプだ。  それに気づかない様子の村田は、話を聞かれたと思ったのか勢いよく話し出した。   「あいつ、付き合ったら束縛が普通じゃねぇぞ。ものすごい量の連絡が来たり、毎日付きまとわれたり。しかも、そうやって好きだ好きだ言うくせに、やらせてくれな……」 「おまえうるさいわ」  村田の話を、直哉が遮る。 「……は?」 「汐見さんはもううちのクラスでは大半が友達なんだよ、そんな話聞きたくねぇわ」  気持ちよさそうに話していたところを、おそらく一番話したかった部分をぶった切られて村田はあからさまに不機嫌そうな表情になる。郁斗もそれ以上先を聴きたくなかったので、直哉の行動には感謝する。が、村田は明らかにイラついていた。 「友達? 本気で言ってんの? あいつに友達なんていんのか」 「いるっつってんだろ。何なのお前。なんのためにそんな話しに来たんだよ」 「忠告だよ、親切だろ」 「余計なお世話だ。お前まさか郁斗みたいに告白されたやつに話に回ってんじゃねぇだろうな」 「……親切だろ」 「は? なんで? 元カレつっても二か月くらいだろ? なに、まだ気があんの? だから汐見さんが誰とも付き合わないようにしてんの? だっさ」 「はぁ⁉ そんなんじゃねぇよ!」  村田が直哉の言いように声を荒げる。顔が見るから赤くなり、いつ殴りかかってもおかしくないほど村田は興奮していた。  これは止めなければと思い郁斗が声を上げようとすると、その前に陸が村田に視線を合わせず、静かに言う。 「郁斗も俺らもそんな情報要らないから、出てって」 「だから俺は優しさで……」 「いいから出てけよ」 「そうだそうだー出てけー」  陸の冷たい声に、直哉が煽る。  村田は急にはっとしたように周りを見渡すと、クラスで注目されてることに気づく。そして、「なんだあいつ」「汐見さんに未練あるのかな」などという言葉が耳に入ったのか、慌てて「そんなんじゃねぇよ!」と捨て台詞を残して出て行った。 「なんだったんだあいつ」  出て行った村田の背中を見送りながら、直哉がつぶやく。 「ああやって、告白した人に回られたら汐見さんも堪らないんじゃない。うざすぎ」  陸も珍しく怒っていた。  郁斗は、結局自分は何もできなかったなと思いながら、「二か月で別れた理由」も少しだけ分かったような気がした。  そんな状況でざわざわしていた教室だったが、ふと視線を感じて目を向けると、明らかに郁斗たち三人を見ている見知らぬ女の子がいた。郁斗に続いて、陸も気が付き顔を上げる。  ストレートで背中まで伸びてる長い髪が印象的な、すごく綺麗な女の子だった。  二人に気づかれたことに気づいた彼女は、慌てて頭を下げて、教室を出て行った。 「なんだ……?」  誰かもわからないその行動が、その外見と相まって妙に記憶に残った。
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