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「そのご褒美、ちょっとだけ前借りさせてよ。」
俺の言葉が気にくわなかったのか、
眉をひそめていた彼は徐ろに立ち上がったかと思うと、俺のネクタイを掴み強引に引き寄せた。
すっと伸ばされる彼の首、
勢いそのまま顔と顔が近づいた。
気づいた頃にはもう遅い。
咄嗟の出来事に、俺は呆然と立ち尽くした。
彼は、閉じていた瞳を薄く開いて、
触れていた唇を名残惜しそうに離した。
そのまま何事も無かったようにイスに座り直すと、満足気に左手を突き出す。
今日のプリントは?って。
それからのことはあまり覚えていない。
借りるもなにも、これは強奪じゃないか。
記憶も唇もお前に奪われた。
触れた唇は燃えるように熱かった。
覚えているのは、その感触だけ...
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