日常①

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本当はずっと気づいていた。 授業中に感じる、そのしつこいほどの視線に。 校舎のいちばん端にある、この教室に来る度に、 俺の背中に注がれるそれは熱を帯びていて、 それがなんともこそばゆかった。 そして、俺はその熱を知っている。 その熱のどうしようもない行方も。 数学には必ず正解がある。 かつて、数学が苦手だった俺に、 そう教えてくれたのが友人Aだった。 どんな数式も、 絡まった糸を少しづつ解いていくと、 シンプルな1本の糸になるんだ、と。 俺はいつか数学者になって、 難解な数式に絡まってしまうお前の糸を、 全て(ほど)いてやりたい、と。 あまりにも透き通った笑顔でそう話す友人Aを見て、俺はいつのまにか好きになっていた。 数学も、彼のことも。 好きこそ物の上手なれ。 友人Aと過ごす時間と俺の数学の成績は比例して 右肩上がり。それよりも急な傾きで募る友人Aへの気持ちも。 青いあの日の記憶。 友人Aもきっと俺のことを気に入ってくれてる。未熟な俺にはそう思えても仕方ないほどの密度で、 俺たちの日々は過ぎていった。 俺は、言ってしまったんだ。
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