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第18話 束の間のデート
グローヴ侯爵家の崩壊から数日後、次期当主──侯爵にはシェリーの兄であるブライアンがつくことになった。
「お兄さまが侯爵になられるのなら安心ですね」
「あ、ああ」
いつもの街のカフェでコーヒーを飲みながら二人は話をしているが、ジェラルドはどこか上の空でよく考え込んでいる。
そんな様子に不満そうに口をとがらせると、ついに我慢の限界が来たのかシェリーが声をかける。
「ジェラルドさまっ!」
「わっ! すまない、考え事をしていた。悪い」
不機嫌に目を逸らす彼女の機嫌を取ろうと、店員にデザートを注文する。
すると、甘いものにちょっと惹かれたのかちらっとテーブルのほうを見る。
その様子にジェラルドはほっとした様子になる。
カフェでコーヒーを飲みながら二人は久々のデートを楽しみ、そしてお互いの近況を語り合っていた。
だいたいがお互いの目付け役である、アリシアとセドリックのことだが、二人がなんかいい感じなんじゃないかと二人は見立てている。
「アリシアったらセドリック様のことちらっと見てたり、それにセドリック様のことをぼうっと見てたりするんですよ!」
「セドリックもアリシアとはとても仲良く話しているのを見る。あいつは女嫌いなのにだ」
「まあっ! じゃあ、もしかして……!」
「もしかするかもな」
そんな自分たちの大切なひとたちの恋バナを勝手に妄想して楽しんでいると、次第に日も落ちてきて夕焼けが綺麗になって来る。
カフェを出て少し歩いたところの海岸で二人は寄り添って海と夕焼けを楽しむ。
「シェリー」
「なんですか、ジェラルド様」
「私は君が好きだ」
「え?」
「君の事を最初は呪いを受けた同じかわいそうな子って思ってたこともあった。けど、今は違う。はっきりと言える。君のことが一番大事だ」
「ジェラルド様」
二人は自然と手を繋ぎ、そしてそっと唇を寄せ合う。
こんな外でって一瞬シェリーの頭には考えがよぎったが、もう想いは止められなかった。
そして、二人の唇が重なり合うその瞬間、シェリーの身体がぐらりと揺れた。
「──っ!」
大きな音を立ててシェリーはジェラルドの腕をすり抜けて地面に倒れた。
胸元の部分からはまがまがしい呪いの気配が感じられて、ジェラルドはシェリーの鎖骨辺りまでドレスの襟をめくると、そこには自分よりもはるかに進行した呪いの跡があった。
「シェリーっ!!」
ジェラルドは急ぎ彼女を抱きかかえると、馬車に乗り込んで王宮へと急いだ──
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