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第10話 妃教育とご褒美(4)
ジェラルドが人波をかき分けて魔女を目指し追いかけるのを、後ろから同じようにシェリーも駆けて追う。
やけに人が多い街並みを急ぐ気持ちで走っていく。
「待てっ!」
魔女の背中がだんだん大きくなったところで一気に手を伸ばすも、ふっと目の前から消えるようにいなくなる。
立ち止まって辺りを見回すと、再び離れたところに魔女の姿がありそしてまたシェリーたちは追いかける。
「貴様、待てっ!!」
ジェラルドがようやく足を止めた魔女の肩に手を置いたその瞬間に、シェリーもその場に追いついた。
「はぁ……はぁ……」
シェリーは息を切らせながらゆっくりと顔をあげて魔女を見ると、深くフードを被ってそして赤い目を光らせていた。
だが、その顔はシェリーの記憶の中の魔女とは少し違い、そして今目の前にいる魔女の顔もシェリーは見覚えがあった。
「……お……かあさん……?」
「え?」
魔女はシェリーのその声を聞き、深くかぶっていたフードを脱いだ。
すると、シェリーにお母さんと呼ばれたその魔女は不気味に笑ってそっと語り始める。
「大きくなったわね、私の可愛いシェリー」
「なんで? 病気で死んだはずじゃ……」
「シェリーの母親だと?」
ジェラルドは戸惑い確認するようにシェリーの顔を見ると、シェリーも彼を見返してそして小さく頷いた。
三人の視線が交錯して、まわりの森に風が強く吹く。
「確かにお前は私に呪いをかけた魔女だ。だが、シェリーの母親でもあるのか?」
ジェラルドのその答えに長く形の整った爪を撫でて、魔女は言う。
「半分正解で半分は違うわ。あなたに呪いをかけたのは私、そしてシェリーに呪いをかけたのも私」
「──っ!」
「でも、私はシェリーの母親ではないわ」
「そんなはずないっ! だってお母さんの顔をしてるっ!」
すると、ゆっくり瞬きを一つすると微笑みながら魔女はシェリーに向かって言う。
「シェリーの母親は私の双子の妹よ。そして確かに死んだわ。私が殺した」
「──っ!!!」
「殺してほしいって言われたのよ、彼女に。だから殺した。私は悪くないわ」
「なんで……」
ジェラルドは腰に携えていた剣を抜き、魔女に向ける。
「ジェラルド、あなたのその命。もう一年を切ってるのよ?」
「そうか、一年か。思ったより長いな」
ジェラルドは余裕の笑みを浮かべながら、ゆっくりと戦闘態勢に入る。
魔女はその剣におびえることもなく、その場から動く気配もない。
「呪いを解く方法を教えろ」
「まあ、レディに向かって教えろだなんて、不躾ね。もっとお願いはきちんとするものよ、へ・い・か?」
「黙れ」
「呪いの真相を知ったとき、あなたは泣き喚くかしら? それとも……ふふ……」
魔女が笑った刹那、シェリーとジェラルドの後ろから何かが魔女のほうに飛んでいく。
シェリーとジェラルドが後ろを振り返ると、そこにはセドリックがおり、その手には弓が構えられていた。
「ご無事ですか?!」
「ああ、大事ない。それより魔女を捕縛しろっ!」
「かしこまりましたっ!」
セドリックは逃げる魔女を追いかけると、シェリーはその場にへたり込む。
「シェリー?!」
魔女との突然の邂逅にシェリーは体中が震えて、そしてそんな彼女をジェラルドは優しく抱きしめた。
セドリック他兵士たちの包囲網を潜り抜けた魔女は、また二人の前から姿を消した──
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