閑話 ある日のランチ

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閑話 ある日のランチ

 妃教育を朝から熱心におこなったシェリーはランチを食べるためにダイニングへと向かっていた。 (クラリス先生、今日も厳しかったわね。もっともっと頑張らないといけないわ)  手をぎゅっと握って、そして自分の頬を叩きながらダイニングに入ると、驚いたメイドたちが一斉に皆シェリーのほうを向く。  シェリーはしまった、とばかりにごめんなさいと頭を軽く下げておしとやかにダイニングのテーブルにつく。  ランチのプレートを持ってきたアリシアの茶色い髪がシェリーの目に入る。 「アリシア、またやってしまったわ」 「お嬢様は突然突拍子もないことを始めるので皆様に驚かれるのですよ」 「そうね、気をつけます」 「陛下の前でやってないでしょうね?」 「そ、それは……なくはない?」 「シェリーがおかしなことをすることについてかい?」  二人はその麗しい声に振り返ると、そこには椅子に手を掛けたジェラルドがいた。 「ジェラルド様っ!」 「シェリーは不思議な子だよ」 「え?」 「この前は廊下の絵に向かって話しかけていた」 「そ、それはっ!」  シェリーは確かに話しかけていた、というより廊下で絵に向かってぶつぶつとこの絵の作者は何派だとか筆の流れはこうだとか、古い者だからこれは唯一の作品だとか絵について語っていた。  その様子をたまたま通りかかったジェラルドに見られていたのだ。 「ちなみにセドリックもいたぞ」 「セドリック様までっ?!」 「それと、庭で見かけたときも花に話しかけていたね」 「ぐっ……」  シェリーの趣味は園芸であったので、庭にあった珍しい色の花を見てこれまたぶつぶつと話していた。  単に本人は趣味で無意識に話している独り言なのだが、あまりにも真剣な表情かつ呟いているので彼女の習性を知らない人からすれば少し怖い。  シェリーはあまりの恥ずかしさに顔を手で覆い隠し、そして身体を縮こませる。 「だが」  ジェラルドはそんなシェリーににこやかに言い放った。 「そんな素直で好奇心旺盛なシェリーが私は愛しいよ」  その言葉にシェリーならず、横にいたアリシアも思わず顔を赤くしてそっと目を逸らした。  ジェラルドはそっと自分の席に向かって歩き、そしてメイドにランチを頼んだ。 「お嬢様」 「なに、アリシア」 「陛下は天然の殺し文句製造メーカーですね」 「やめなさい、その言い方は」  二人はこの日よりジェラルドのことをしばらく『殺し文句陛下』と呼んでいた──
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