夢の中で美少年を看病したらハッピーエンドになりました!?

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 翌朝、いつもよりも長めに眠ったのに全く疲れが取れず、ぼんやりとアシュリンは朝食を食べるシュレッドを眺めていた。 (二日連続で同じ場所の夢を見るとか、私はどうしたんだろう? 側に置いておいた兎のぬいぐるみも無くなっているし。もしかしたら、あれは夢じゃない? だったら、あの少年は今も傷だらけであの部屋に閉じ込められている? ご飯は食べているのかな?)  綺麗な顔立ちでも表情に少し幼さが残っていた少年は、シュレッドと同じくらいの年齢だろうか。  少年が弟と同年代かもしれないと思うと、たとえ夢の中の出来事だとしても切ない気持ちになる。 「姉さん、どうしたの?」  食器をキッチンへ運び終えたシュレッドは、心配そうに椅子に座って考え事をしているアシュリンの顔を覗き込んだ。 「ちょっとぼんやりしていただけよ」 「ならいいけど、寝不足なら開店時間を遅くして、少しゆっくりしたら?」 「ゆっくり、ってシュレッド! そろそろ出なきゃ遅刻するわよ!」  時計へ視線を移したアシュリンは、テーブルに手をついて勢いよく立ち上がった。  シュレッドを送り出したアシュリンは、欠伸をこらえて薬局の開店準備を始めた。 「ありがとうございました。お気をつけて!」  ハイポーションを買って行った冒険者の青年を見送り、アシュリンはカウンターの奥にある休憩スペースの椅子に座って一息ついた。  エメル特製ポーションは町の人々や冒険者からの評判が良く、入荷するとすぐに売れてしまう。 (あの少年、怪我をしていたのに手当もされてなかったわ。回復魔法は使えないし、あのままじゃ傷が化膿して悪化しちゃうわね)  店頭に出しているハイポーションは少なくなってきたため、在庫を置いてあるカウンター奥の休憩スペースへ向かった。  在庫を置いている棚からハイポーションの瓶を出し、そのうちの一本を空の薬箱へ入れる。 (もしも、手にしている物が夢の中に持ち込めるのなら……傷の手当は出来るかな?)  少年の怪我の状態を思い出しながら、アシュリンは手当に必要な消毒液と包帯、綿球と軟膏を棚から取り出して薬箱へ入れていった。  ***  硬く冷たい床の感触が足の裏から伝わり、アシュリン閉じていた目蓋を開く。  抱えて眠った薬箱はしっかり腕の中にあり、夢の中に持ち込めたことに安堵の息を吐いた。 「あの、こんばんは?」  おそるおそるかけたアシュリンの声に反応して、ベッドに横たわっていた少年は緩慢な動きで上半身を起こす。  少年に寄り添うようにベッドの上に置いてあるのは、昨夜彼に渡した兎のぬいぐるみ。 「動いても大丈夫?」  ベッドへ近付いたアシュリンは、シャツの上から見える少年の腕の傷に目を向ける。  昨夜に比べれば出血は止まっているとはいえ、まだ瘡蓋で覆われていない傷は酷いことには変わりなかった。 「ああ。どうやら俺を捕らえた奴らは、食事と排泄させてくれる慈悲はあるらしい」  少年の視線の先には、床に置かれた簡易トイレと金属の盆があった。  臭いが気にならないのは、定期的にトイレを交換されているからだろう。とはいえ、怪我の治療はされないなんて、少年はどんな罪を犯して投獄されているのか。  問いたくなるのを堪え、アシュリンは抱えていた薬箱をベッドの上置いた。 「傷を見せて。簡単な手当くらいしか出来ないけど、このままでは酷くなっちゃう」  薬箱の蓋を開いて手当の準備を始めるアシュリンに、少年は目を丸くする。 「君は……いや、頼む」  俯いた少年に背中を向けてもらい、血で汚れて傷口に張り付いたシャツを慎重に脱がす。  手枷についている鎖が邪魔をして脱げないため、袖はハサミで切って脱がせたシャツは畳んで床に置く。  濡れタオルで肌を清拭しながら、傷口にハイポーションを塗り込んでいった。  時折、傷の痛みで少年の体が揺れる。 「ハイポーションを使っても塞がってくれないなんて、どうやって傷付けられたのよ」  胸の傷はあきらかに心臓を一突きしようとしたもので、ハイポーションを塗り込み軟膏を含ませたガーゼを貼り、上から包帯を巻いた。 「部屋全体にかけられている結界が魔法を封じ、回復薬の効果を弱めているんだろう」 「結界が? だから魔法が使えないのね」  回復魔法が発動しなかった理由に納得して、顔を上げたアシュリンは「あら」と声を出しかけた。  痛みを堪えていた少年の頬はほんのりと赤くなり、両目の涙で潤んでいたのだ。 (痛いなら痛いって言えばいいのに。大人びているとはいえ、シュレッドと同じくらいの男の子が我慢しているのは、ちょっと可愛い)  にやけそうになる口元に力を入れて、アシュリンは少年のベルトに手をかける。 「次は脚の手当てをするね。下も脱いで」 「なっ! 下は、いい。自分でするから」  顔を真っ赤に染めた少年は、ベルトに触れるアシュリンの手を払い退けた。 「薬箱は置いておくから、ちゃんと下の手当をしてね」 「……ありがとう。大分楽になった」  全身を真っ赤に染めた少年は恥ずかしそうに目を逸らす。 (ふふっ照れてる。シュレッドと同じくらいの男の子なのに、鍛えているのか凄い筋肉をしているわ。手も指も硬いし、剣を扱っている騎士見習いとかかな?)  清拭をして血と汚れを落としてみると、少年の髪は灰色ではなく銀色で体つきも随分鍛えてられたものだった。  騎士か騎士見習いなら、手枷足枷を付けられているのも分かる。  横を向いていた少年の顔が動き、彼の目とアシュリンの目が合う。 「君の、君の名前は?」 「私の名前? アシュリンよ。貴方は」  少年の名前を問おうとした時、アシュリンの視界に靄がかかっていく。  さよならを言いたいのに、喉から出した声は音にならなかった。
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