夢の中で美少年を看病したらハッピーエンドになりました!?

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 扉の前に立ったアシュリンが手を上げると、ほぼ同時に勢いよく内側から扉が開いた。 「ねぇねぇ! 魔法薬の効果はどうだった?」  開いた扉から出て来たのは、いつもの魔女のローブではなく普通のワンピースを着て、髪を耳の後ろでツインテールにしているエメルだった。 「あのねぇ、先に言うことがあるでしょう」  何日もかけて作った魔法薬の効果を気にするのは当たり前かと、苦笑いしたアシュリンは少し考えてから口を開いた。 「効果はあったと思うよ。ただし、どの程度回復したかは分からないけど」 「ええー? どういうことー?」  曖昧な答えを聞き、不満そうにエメルは唇を尖らせる。 「確認する前に、怪我人がいなくなってしまったからよく分からないの」  結果を確認する前に、夢から覚めてしまったアシュリンにはそうとしか答えようがない。  魔法薬を飲んだルークと別れた翌日、ルークがどうなったのか気になり早目にベッドへ横になった。  何度も寝返りを打ち、ようやくアシュリンが寝付けたのは深夜に近い時間帯。  ルークが捕らわれている牢で目を覚まし、すぐに隣室へ移動して彼の姿を探したが……隣室のベッドの上には彼の姿は無く、残されていたのは壊れた枷と刃物で切られた鎖だけ。 「枷と鎖が壊れている。ルークの怪我と魔力が回復して、ここから脱出したんだね」  牢の中でルークの自由を奪っていた枷と鎖を持ち上げてみる。  片手で持つにはずしりと重く、彼はこんなに重たく冷たい物で四肢の自由を奪われていたのかと、胸が痛くなった。 (あれは夢なのに。魔法の力で干渉された夢だとしても、牢から出られたのならよかったのに、どうして私は喜んであげられないんだろう。彼のことは、ルークという名前と囚われの身だったってこと以外は何も知らないのにね。考えても仕方ないわ)  首を横に振って考えを中断させたアシュリンは、今朝エメルから仕入れたハイポーションと軟膏を棚に並べる。  在庫が少なくなっている薬品を管理票に記入しようと、バインダーを取りにカウンターへ向かった。  チリンッ。  扉に取り付けたドアチャイムが鳴り、来客を知らせる。 「いらっしゃいませ」  振り返ったアシュリンは大きく目を開いた。  薬局へやって来たのは、薬品を求めて来店する客とは違う腰に剣を佩いた兵士達だった。  この地域一帯を治めている領主に仕える兵士と、彼等の中央に立つ役人風の男性は戸惑うアシュリンを一瞥する。 「貴女が、アシュリン・ジリーですか?」 「はい。何か探し物でしょうか?」  大きな事件が無い限り、田舎町では領主に仕える役人と兵士の顔を見るの機会は、商売の手続きや納税の手続きをする時くらいしかない。  大きな事件も起きていない時に彼等が来たということは、書類の不備で何らかの処分を受けることになるのか、間違って国内では扱ってはいけない危険な薬品を取り扱ってしまったのか。  色々な可能性を思い浮かべ、アシュリンは顔色を青くする。 「あの、うちの薬局では違法な薬品は取り扱っていませんし、税金もしっかり納めています。咎められることは何もしていません」  緊張で顔を強張らせるアシュリンを見下ろし、役人は僅かに口の端を動かした。 「我々は、貴女を罰するためにここに来たわけではありません。貴女を領主様の元へお連れするために来ました。アシュリン嬢、平民である貴女に会いたいという、とても高貴なお方がお待ちです」 「私を? 今から領主様の所へ行くのですか?」 「では、行きましょうか」  有無を言わせない口調で言った役人はアシュリンの肩を掴み、動きを止めた。 「触るな」  背後から近付いた背の高い男性が、役人の首に抜き身の短刀を突き付ける。  振り向こうとした役人の首に短刀の切っ先が触れ、彼は皮膚を傷付けられた痛みで小さく呻いた。 「手を離せ。そして、彼女の名前を軽々しく口にするな」  震える手がアシュリンの肩から外れ、脂汗を流す役人はガクリと膝から崩れ落ちた。 「やっと見つけた」  役人の背後に立ち短刀を突き付けていたのは、背の高い男性だった。
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