天国からの手紙

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天国からの手紙

窓から見える『風景の色』は『夕方色』から 『夜色』に変わっていた。 でも二人にとってはすべて見慣れたものばかりだ。 車は由香と文彌を懐かしい『我が家』に運んで来た。 疲れて眠ってしまったふ~ちゃんを抱きかかえた文彌は友香の手を引き小道を歩く。 玄関のドアを開けると、車の停車音を聞いた片桐と叔母の良子が出迎えた。 「お帰り、文彌!遅かったな……っと、由香ちゃん」と驚く片桐。 「こんばんは、その……片桐さん、叔母さん」 と由香が言った。 「由香ちゃん、ふ~ちゃん」 良子が小声で言う。 それを聞いた文彌は寝ているふ~ちゃんを差し出し「おばさん、ふ~ちゃんをお願い」と言うとふ~ちゃんの体を良子へ預けた。 文彌は、由香の手を掴むと、そのまま2階に上がり文彌の部屋のドアをパタンと閉めた。 良子と片桐が心配そうに文彌の部屋の ドアを見つめた。 「文、痛い!離して!」の声に文彌は我に返り急いで掴んだ手を放す。 『文彌の部屋』そこは姉弟として色々な話をしていた場所。 『文彌の部屋』そこはかつて文彌と由香が 愛を確かめ合った場所。 様々な記憶が由香の脳裏を横切る。 由香は溢れ出そうな感情を抑えながら、 文彌を見た。 「由香、聞きたいことは山ほどあるけど、 とにかく座って」と文彌は友香に優しく言う。 由香はベッド端にゆっくりと座る。 文彌が友香に一通の封筒を手渡すと、 「由香、これ読んで」 「何?」 「父さん、母さんからの手紙」 「お父さんとお母さんから?」 「そう、俺は読んだから」 そう言うと文彌は由香の隣に座った。 由香はその封筒の中にある数枚の便箋を取り出す。冒頭には、 『由香へ 文彌へ』と懐かしい両親の字が書いてあった。由香は手紙を読みだした。 由香へ 文彌へ この手紙を見つけたのは由香かな?それとも文彌かな? この手紙を読んでるのは友香?文彌?それとも二人で読んでるのか? 今日、父さんと母さんはどうしても由香と文彌に伝えたいことがあってこの手紙を 書いています。驚くこともあるかもしれないけれど、傷つくこともあるかもしれないけど、どうか最後まで読んでほしい。 お前達二人ならきっと、最後まで読んでくれると思うから。 そして父さんと母さん二人の気持ちをどうか知ってほしい。 由香、お前は私達そして、文彌とは血が繋がっていない。本当の姉弟ではない。 このことは、文彌は知っている。文彌が17歳の時に父さんと母さんが文彌にこの事実を伝えた。多感な時期の文彌にとって、とても苦しい思いをさせてしまったと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。文彌、すまない。でも、文彌なら父さんや母さんの想い、そして真実をきっと受け止めてくれると思うから。だから、私達二人の本当の気持ちを手紙に記しておこうと思う。 父さんと母さんには学生時代からの親友がいた。 彼らと僕たちはいつも4人で勉強をしたり、遊んだりしていた。 卒業してからも4人は機会があればいつも一緒の時間を過ごしていた。 時間を重ねていくうちに、父さんは母さんと、親友達は自然と惹かれ合い、互いを人生のパートナーに選んだ。親友夫婦に子供が出来た。私達は自分のことのように喜んだ。 月日が経ち、赤ちゃんが生まれた。可愛い元気な女の赤ちゃんが由香お前だ。親友夫婦は由香を大事に大切に育てていた。 ある時、親友の彼が僕に、「もし、お前のところに男の子が生まれたら、うちの由香と一緒にさせたいな。そうしたら、俺たちずっとずっと今のままでいられよな。 今度は家族、親戚同士でさ」「ああ、もし男の子が生まれたらな。約束するよ」「あなた達、そういうのは本人同士の気持ちが大切なのよ。ね~、玲子さん」と彼女は由香を抱きながら言った。母さんも僕たちの会話を聞いて笑っていた。僕はあの時の二人の笑顔は今でも忘れられない。 暫くして、父さんと母さんは国内の旅行に行く計画をしていた。仕事で忙しくしていた父さんにとっては、母さんと過ごせる時間がほしくて旅行会社に無理にお願いをして旅の手配をしてもらった。母さんも楽しみにしていた。しかし、父さんに急に大口の取引の仕事が舞い込んで来た。この機会を逃したくないと思った父さんは、今回の旅行は中止にしたいと母さんに話した。母さんはその時も、いやな顔一つ見せずに笑顔で了承してくれた。 しかし、父さんは旅行会社に無理に頼み込んだ手前、この旅行をキャンセルするのではなく親友夫婦に譲ろうと考えた。親友夫婦に事訳を言うと、彼らは喜んで友香を連れて父さんと母さんの代わりに旅行に出かけた。 旅行最終日、父さんの携帯に着信が入った。それは、他の友達からの電話だった。 父さんは慌てて、母さんとテレビをつけた。父さんと母さんの眼に飛び込んできたのは、旅客機墜落のニュースだった。彼らは、父さんと母さんが乗るはずだった飛行機で事故に合い亡くなってしまった。父さんは悔いた。あの時、 無理に旅行の計画を立てなければ、親友夫婦に旅行を譲らなければ、後悔しか残らなかった。 しかし、奇跡的に数名の生存者が見つかった。その中に小さな女の赤ん坊がいると知らされた。父さんと母さんは、直観で由香と思った。急いで、問い合わせをすると、直観の通り、その赤ん坊は由香だった。由香は屋外に投げ飛ばされたが、草木等がクッションとなり、一晩外で過ごしたようだが、大きな元気な声で泣いていたため、発見が早く奇跡的に助かったそうだ。 親友夫婦の葬儀の後、私達は由香がどうなるのか心配になり尋ねた。すると、親戚に引き取られるはずであったが、それが叶わず、施設に引き取られていくと聞かされた。父さんと母さんは思った。彼らが残した忘れ形見を私達がしっかりと育て上げる。それが父さんと母さんができる最大の償いであるということを。 それから、父さんと母さんは、『里親制度』という公的機関を通じて正式に由香をわが子として迎え入れた。 友香はとても可愛らしい笑顔で私達を見てくれた。まるで天使のようだったよ。しばらくして、文彌が生まれた。由香は文彌が生まれたことをとても喜んでいた。 二人は、すくすくと育ってくれた。本当に仲が良く、本当にお互いを助け合えるいい子達だ。 しかし、お前たちが成長していくにつれ、父さんと母さんにはある思いが生じた。 由香と文彌をこのまま、姉弟として育てていいものかどうか 本当のことを伝えるべきなのではないのか 物凄く悩んだ。物凄く考えた。 父さん、母さんの出した答えは、いつか本当のことを二人に伝えることだった。 文彌に本当ことを伝えた後、真実を受け入れてくれるのには多少時間がかったことも知っている。どうしていいか悩んで、イラついてたことも父さんと母さんは知っている。でもきっと文彌なら乗り越えてくれると思って見守っていた。 ある日、文彌と由香がモデルの仕事をしたと言ってきた。出来上がった写真を母さんに見せられた。写真のお前達は、見つめ合いニッコリと笑っている本当の恋人同士に見えた。 この時に父さんと母さんは思った。やはり、この二人の人生は本人たちが決めるべきだと。 このまま姉弟としてここで暮らすか、または他の誰かを好きになって二人ともこの家を出ていくのか。そして、二人でこの家で家族として人生を共に生きていくのか。 由香、文彌、父さんと母さんはお前たちが本当のことを知って、その上で出した結論はすべて正解だと思う。 だから、そのことを明日のお墓参りで彼らに報告しようと思う。 この二人の写真を見せに行こう。そして、君らの残してくれた大切な娘と僕たちの息子こんなにいい子に成長したよ。この子らの未来は子供たちに決めさせていいだろうって。 だから、最愛の 文彌、由香へ、自分の気持ちに正直に生きろ!           12月1日 立花 純平                 立花 玲子 手紙は事故の前日に書かれたものだった。 由香は泣きながら最後まで読み終える。文彌は由香が読み終わるのを隣で見守った。 文彌が立ち上がり、机の引き出しからフォトフレームを取り出すと由香の前に差し出した。 「父さんと母さん、これをお墓に見せようとしてたみたい。母さんが事故当日に持っていたバッグの中に入ってた。今まで俺が持ってた。ごめん」 小刻みに震える由香を見た文彌は友香の肩にそっと腕を回して言った。 「俺はこれからは、自分に正直に生きていく」と……。
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