My Place

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「由香はいつからそんな泣き虫になったの?」 文彌は由香の頭に手を置くと優しく言った。 「泣き虫……って、普通はこんなんじゃない」と由香は涙を目で拭いながら言う。 「俺の中の由香はいつも元気で笑っているよ。ごめんな、俺のせいだろ?」 「そ~かもね」と由香が笑う。 「えっ! そうなの?そう言ったけど、 全て俺のせいじゃないでしょ」 と呆れる文彌。 すると由香が真顔で言った。 「3年前、社長がここに来て文との関係を聞かれて、『姉弟』として文のことを想うことができないのであれば、文と離れるように言われたの。私は文のことを誰よりも一番に深く想ってるって思ってた。 だけど、それと同じ位に津崎社長も文のことを大事に育て、大切にしていること、そして『文のこの先の未来も守りたい』という思いがあることが分かったから私は、文と離れる決心を した」 「そうか……俺も突然、社長から由香と会うなと言われてさ。気が動転しちゃって。何を言われたのか、あの頃の記憶がないんだよね。でも、あの頃はまだ俺もガキだったから、先のこととか見据えてって言われてもわかんなかった 結局俺は周りの大人に守られてたんだって後になって気が付いた、由香のことを探さなかったのは、由香の未来は由香自身が決めることだから、俺の前からいなくなったのは由香が出した答えなんだって言いきかせてた」 「私、文と別れた頃に、お腹にふ~ちゃんがいることがわかって、でも、『文からもらった大切な宝物』だから、『これだけは守りたい』って、『これだけは手放したくない。大切にする』って思った だから、ふ~ちゃん産んで一人で育てると決心をした。でも結果、友達や周りの大人の助けがあったから、ここまでやってこられた」 「由香、ごめんな、一人で。辛かったな。ごめん」 「大丈夫だよ。文でも、文が映画の撮影であの町に来ることになったと保育園の先生から聞いた時は驚いた 実話、撮影場所にこっそりと見に行ったんだ。  撮影している文はやっぱりキラキラしててカッコよかった。ふ~ちゃんをお迎えに行ったら、先生が『文に抱きかかえられたふ~ちゃんの写真』を見せてくれて、記念にって転送してもらって、嬉しかった。宝物がまた一つ増えた気がしたの。ほら」 と由香は文彌にスマホの待ち受け画面を見せた  待ち受け画面には『文に抱きかかえられたふ~ちゃん』が映し出されていた。 「俺、もし、由香がまた俺の前に現れたら、また、『ねえちゃん』って呼ぶんだって決めてたんだ。でも、だめだった 岬浜海岸でふ~ちゃんがつけてた『変なブローチ』見つけた時、 由香の顔が浮かんで来て、由香の笑顔、由香の泣き顔、由香の全てを思い出した。 やっぱり俺は友人香じゃなきゃだめなんだって……俺の居場所は由香の隣なんだって。 でも、その……『由香のご主人』の手前、 『姉弟』でも仕方ないのかなって。由香が幸せならそれでいいのかなって 思って……」 「ご主人って?」と由香が聞き返す。 「だって、由香、名前が、津崎由香って。 津崎……つざき、つざき?」 「うん……そうだよ」と由香は頷いた。 階段を上る小さな足音が聞こえた。 その小さな足音は文彌の部屋の前で止まった。 そして部屋のドアがゆっくりと開いた。 ドアから、ふ~ちゃんが顔を出し由香がいると確認すると寝起きのふ~ちゃんが由香の元に歩み寄ってきた。 「ふ~ちゃん起きたの?」 「うん、ママ、おにいちゃん、ふ~ちゃん、 おきたよ。かいだんあがってきたよ」 「えらいな~。ふ~ちゃん」と由香がふ~ちゃんの頭を撫でる。 文彌はふ~ちゃんに近づくと、ふ~ちゃんの 目線の高さまでしゃがみ込んだ。 「おにいちゃん?」と不思議そうに文彌の顔を見るふ~ちゃん。 「ううん、おにいちゃんじゃないよ、僕は ふ~ちゃんのパパだよ」 「パパ?」 「そう、ふ~ちゃんのパパ」 「パパ~」と笑顔でふ~ちゃんは文彌に抱き着いた。 「迎えに来るの遅くなってごめんな。『文人(ふみと)』これからはママとパパと三人、ずっと一緒だよ」と文彌は文人を抱きしめながら言った。 「ふ~ちゃんの居場所はここ。 パパとママの居場所もここ、そうこの家だ」 と文彌は腕の中でニコニコと笑うふ~ちゃんに言う。 そして、ふ~ちゃんから離れ、立ち上がると 「泣くな!泣き虫!笑え!」と笑いながら由香を抱きしめた。 階段の下でその様子を伺っていた良子と片桐は顔を見合わせた。 「じゃあ、私そろそろ帰りましょうかね・・」 「あっ、僕も帰ろうかな。でも、すみません、車、アイツらが使うと思うので、すみませんが駅まで送ってもらっていいですか?」 「いいですよ。行きましょうか」 二人は良子の車に乗り込み家を後にした。 駅に到着した頃、片桐に着信が入る。 「もしもし、片桐です」電話の相手からは何やら質問と指示。 「はい、はい、わかりました それでよろしいんですね。では後日」と電話を切ると片桐は電車に乗り込んだ。 「ママ、お腹すいた」とお腹を押さえた ふ~ちゃんが言った。 「本当、お腹すいたね~」と由香も言う。 「何か、作る?でも、冷蔵庫空っぽだしね。俺、買い物行ってくるわ」 「文、ちょっと何言ってるの? だめだよ。さすがに、その感じじゃ 立花文彌ってばれちゃうよ」 「そうか、やっぱりまずいよな……」 「私が行ってくるよ」 「わりい、じゃあお願い」 二人の交わす会話はあの時のまんま、 由香が買い物から帰ってくると、ふ~ちゃんが出迎えた。 文彌の野菜を切る包丁の音もあの時のまんま、 横にはふ~ちゃんを抱っこした由香がその様子を見ている。 三人は出来上がった料理を美味しそうに食べる。 由香・文彌・そして文人の笑い声が聞こえる。 数年ぶりに聞こえる笑い声は、リビング全体を 『幸せ色』に染めた。 半年が経過した… ここは、『こばと保育園』、休憩中の先生が週刊誌を読んで微笑みながら呟いた。 「文彌さん、由香さん、そして、ふ~ちゃん お幸せに……」 「りか先生~お電話です~」 「は~い、今行きます」と先生は週刊誌を テーブルに置くと部屋を出て行った。 置かれた週刊誌の見出しには、 『立花文彌 一般女性と結婚!  お相手は……』と書かれてあった。 「友香~元気? 私さ」電話の相手は由香の 親友の真奈美。相変わらず忙しく話す。 「うん、うん、元気だよ。じゃあ、またね」と暫く話をして電話を切ると友香はソファーに座り洗濯物を畳み始めた。 ふ~ちゃんが、由香の傍にやって来て、由香の手を握ると言った。 「ママ、こっち、きて」と由香をテレビの前に連れて行く。 「ふ~ちゃん、何?」と由香が優しく尋ねる。 由香をテレビの前に座らせると、小さな可愛い指でテレビ画面を指差すふ~ちゃん。 「パパ、パパだよ」 画面には、レッドカーペットの上を歩く タキシード姿の文彌が映っていた。 そして、同じ映像を津崎社長と片桐も社長室で見ていた。 「いや~、しかし社長考えましたね。 私、最初聞いた時は驚きましたよ。」 「何が?」 「由香ちゃんを津崎社長の養女にするってことですよ。由香ちゃんを津崎社長の戸籍に養女として迎える。そうすれば、文彌とは赤の他人ですからね。  業界のゴッドマザーと呼ばれる津崎社長の娘ともなれば、マスコミ各関係者からもあの二人を守ることができますからね」 「まあ、二人のご両親には勝手なことをして申し訳ないと思っているわ。 でも、二人の叔母さん?に事情を説明してご理解とご協力していただいて、感謝してるわ。 しかし、独身の私に『娘』と『孫』がいきなりできるのは想定外だったけど」  「そうですね。由香ちゃんがふ~ちゃん産む時なんてみんな大騒ぎで大変でしたもんね。 そういえば、今までのこと文彌には話したんですよね」 「ええ、話したわ。最初は驚いて混乱してたけど、ちゃんと理解してくれた そしてお礼言われたわ。それに、もし何かあっても今の文彌だったら、十分に由香ちゃんとふ~ちゃんを 自分の力で守ることができる。そういう位置に彼は辿りついた」 「そうですね。私達が真実を明かす前に文彌 自身が由香ちゃんとふ~ちゃんを見つけ出してしまいましたけど。俺、文彌から、笑いながら『袈裟斬りチョップ』されましたよ」 テレビの画面を見て友香がふ~ちゃんに言った。 「本当だ、パパだ。今日もカッコいいね  文、キラキラしてる」 「うん カッコいいね~」と可愛い声が聞こえる。 テレビを見る二人の後ろ姿越しにフラッシュを浴びる文彌の姿があった。 風薫五月、窓から入る風がカーテンを揺す。 由香、俺の居場所は君の隣。 文、私の居場所はあなたの隣。 ずっとずっと前から分かってた。 俺の……そして、私の…… My Place                               ~ 完了 ~
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