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輝く弟と心配な姉
今日は、例のオーディションの最終選考日。
由香と両親と一緒に会場となる
00ホールにいた。会場につくと、文彌の仲間たちも文彌の応援にかけつけていた。
仲間のひとりが、「おじさん、おばさん、
すみません 俺らが勝手に応募してしまって」
と純平と玲子に謝った。
「そのことなら大丈夫だよ。気にしなくていいから。今日は文彌を応援してやってほしい 」と純平は答えた。
こうして、両親、由香、仲間たちの応援を背に文彌は最終審査に臨むことになる。
ホール内は各エントリーの応援者をはじめ沢山の人で埋め尽くされており、ライブ会場のような熱気がこみ上げていた。由香達は座席に着き最終審査の開始を待った。
ホールの照明が落とされ、ドラムロールが鳴り響く中、司会者にスポットライトが当たる。
最終審査の開始を知らせる合図だ。
ホール中央に設置された階段をエントリー者が順番に降りてくる。
文彌のエントリーナンバーは「5番」
皆はまるで自分が階段を降りて来るかのようにドキドキしながらその時を待った。
「エントリーナンバー 5番 立花文彌くん 高校1年生 16歳 」のアナウンスの後、いつも見慣れた白いカッターシャツに、紺色と白が混じるネクタイを着けた制服姿の文彌が階段を降りてきた。
会場からは「キャー」と黄色の歓声が上がる。
この光景に由香と両親、仲間たちは驚いた。
最終審査は、イベントスタッフが選んだ、衣装を着用し、ステージ上を歩くモデル審査、ドラマ仕立ての演技審査、歌の審査の3つの採点の合計に投票数が加えられたもの。
モデル審査に文彌が登場すると文彌の姿に誰もが驚いた。
そこには、ふわりと遊ばせた髪の毛に目元が強調されるメイク、全身黒の衣装を着た文彌の姿は、16歳には見えない『少年と大人が合わさった』表情、
スラリとした彼の立ち姿に会場がどよめいた。
「文じゃないみたい。完全に別人だよ」
と由香が呟く。
演技審査においては、不慣れながらも、白いシャツとGパン姿で先程とは真逆の『ひときわ目立つ爽やかさ』で会場内を魅了する。
『子犬のような甘えた表情』と
『圧倒的な透明感』に会場内からの歓声が響き渡る。
その後の歌審査を経ていよいよ審査結果が発表の時が近づく。
会場内が静まりかえると照明が落とされ薄暗くなりドラムロールの音が会場に鳴り響いた。
司会者の声と無数に交差するスポットライトの光に由香は一瞬目を伏せる、ら
「発表します。今年度、イケメン男子高校生 発掘オーディション、グランプリは……
エントリーナンバー5番、立花 文彌君 16歳」
交差していたスポットライトの光が文彌の身体一点に集中する。
そして、光の中に浮き上がりガッツポーズをする文彌の姿。
物凄い拍手と歓声が彼を包み『グランプリ受賞』を祝福した。
鳴りやまない拍手の中、ステージ中央に立つ文彌の姿に「やっぱり、文じゃない……」
と由香は少し寂し気に言った。
その後、喜びに包まれた文彌を全員で祝福した。
「ねえちゃん、俺 頑張ったよ!頑張れたよ!ねえちゃん、最後まで応援ありがとう!」
と涙目の文彌が由香に言った。
「おめでとう。よかったね文」と由香は文彌に言葉を贈る。
文彌はグランプリ受賞後、早々に所属事務所が決まった。
しかし、16歳という年齢を心配した純平と玲子は、18歳まではモデル等の活動については、なるべく金曜の夕方から土日に行うと限定し、卒業までは自宅から都会にある事務所に通うことを条件として契約を行った。
こうして文彌は、『現役男子高校生』と
『モデル』の二足の草鞋を履いたのである。
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