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遅れてきた反抗期
高校2年、17歳になった文彌はモデルの仕事も順調で、学業とモデルの仕事を両立していた。高校を卒業した由香は19歳、地元の大学に進学し自宅から毎日通っている。
由香が大学から帰ると、リビングに両親と文彌が話をしているのが見えた。
入口に背を向けて座る文彌の表情は見ることが出来なかったが、両親の真剣な表情だけは見ることが出来た。「文の仕事関係の話かな?」
由香はそう思いながら、リビングのドアを開けた。
「ただいま 」その声に反応するかのように文彌が振り返り由香の顔を見た。
「ただいま」と友香が言うと、文彌は友香の目をじっと見ると無言で2階の部屋に行ってしまった。
「おかえり。」と玲子が優しく言った。
「だだいま お父さん今
日帰り早かったんだね」
「そうなんだ。今日はたまたま早く
終わったんだよ」と純平が返事をする。
「夕食の準備するから、由香手伝って」
と玲子が言った。
「はーい」と由香は着替えに2階に階段を上っていった。
2階に上がると由香は部屋着に着替え、
文彌の部屋を覗くと文彌はベッドに
寝転び天井を眺めていた。
「文……」と由香が声をかける。
「な・なんだよ!」と慌てて起き上がる
文彌……
「いや 何でもないけど、何考えてるのかなって声かけただけ」
「ノックぐらいしろよ!」
と文彌は声を荒げた。
「ごめん、気をつける。そんなにおこることないのに」と言うと友香は階段を降りて行った。
その様子をじっと見つめていた文彌は
「なんで……」
と言いベッドに寝転がり毛布を被った。
夕食の準備が出来たため、由香は再び
文彌を呼びに2階へ上がる。
文彌の部屋は電気がついていないため、真っ暗で、毛布を被り寝ている文彌の姿が見えた。
ノックをし、部屋の中に入ると、
「文、夕ご飯できたよ。下に降りてきなよ」
「今日 俺、いらねー。食べたくない。疲れたから寝る」と毛布を被ったまま、由香に言った。
「ふ~ん、わかった」
由香はリビングに降りて行った。
「あれ? 文彌は?」と玲子が友香に聞くと
「何か疲れたから、今日は寝るって、
ごはん、いらないんだって」
「そうかぁ、まあ、食べようか」
と純平が言った。
「いただきま~す」と由香の元気な声が2階の文彌にも聞こえていた。
夕食が済み、リビングでくつろぐ由香を見ながら、玲子はおにぎり2個をのせたお皿、麦茶をコップに注ぐとそれらをお盆にのせ2階にあがって行き文彌の部屋をノックした。
「文彌……入るわよ」
文彌は起き上がるとベッドの端に座った。
「文彌……大丈夫? 普通でいいのよ
普通で、今まで通りに」
と玲子はゆっくりした口調で文彌に話す。
「わかってるよ、母さん、でも……
俺、少し時間かかるかも……
今日は、もう無理……」
と言うと顔を横に向けた。
それを見た玲子は「ゆっくりでいいから」と言い残すと、おにぎりをのせたお盆を机の上に置いて部屋を出て行った。
「何かがおかしい。何かが……」
と由香が親友の真奈美に話す。
「どうしたの?」
「文がね、最近おかしいの」
「なんで?普通に見えるよ あのイケメン弟君、爽やかだね~」と雑誌の表紙に載っている文彌の写真を見て言った。
「だって、今までは毎日一緒に出掛けてたのに拒否られるし、怒られるし、何か手伝おうとすると、『さわんな』って怒るし、いつもイライラしてるし、それに、いままでは『ねぇちゃん、ねぇちゃん』って言ってたくせに、『オイ・おまえ』しか言わなくて。絶対に避けられる」
それを聞いた、真奈美は笑いながら言った。
「うん、反抗期だね……それと思春期で急に恥ずかしくなったんだよ。文彌君も難しいお年頃なんだね~」
「思春期かぁ~ 文も17歳だしね。仕方ないか 時期収まるのを待つしかないのかな~?」
「おねえちゃん、頑張って!」と真奈美は由香の肩をポンと叩いた。
帰宅した友香は、玲子と純平に最近の文彌の自分に対する態度がおかしいと話をした。すると、二人は笑いながら、
「それは、遅れてきた反抗期だな……時期収まるさ」と言った。
「そうなんだ。でも……」と不安が残る友香であった。
暫くすると、両親と親友の言う通り文彌の友香に対する
『冷たい態度と反抗的な態度』は徐々に減り以前のような二人に戻りつつあった。
ただ、文彌は友香のことを『ねえちゃん』とは呼ばなくなった。
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