60人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
*
今度こそまぶたを開いた。そこにひどい重みと眠気があって、これは紛れもない現実なのだと風間は確信した。
全身がだるくて、動けない。
ぼんやりとした天井は知らない模様だった。視界いっぱいが白い。朝方だろうか。
──病院……?
声を出そうとすると、喉が干からびて、ひきつってうまく声が出せない。
だがそんなひとりぼっちの風間の手が、そっと暖かさに包み込まれた。
「風間さん」
視界に現れた顔が泣き笑い、唇がその名を呼んだ。
頬に涙が落ちて、肩に額が触れる。
渚はずっと待っていてくれたのだ。
風間は力を込めて腕を上げ、髪に指先で触れ、抱きしめた。
「渚」
己の在る限りの声を、絞り出す。
「愛してるよ」
最初のコメントを投稿しよう!