エピローグ

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 ガレージから車を古代邸の正門に回すと、渚がスマートフォンを両手に持ちながら待っている。車を停めると、慌ただしく助手席に乗り込んできた。 「風間さんっ、見て、見て」  渚がスマートフォンの画面を風間に見せた。 「SSRが出ました」 「えすえすれあ?」 「ガチャです!」  ふぅっと渚が興奮気味な呼吸を押さえつけて、手を胸に当てた。風間は失笑して、バックミラーの位置を整えるとギアをドライブに入れる。 「それはきっと嬉しいことなんだろうね」 「狂喜乱舞ですよ! すっごく来てます」  そう言って飛び上がらんほどに興奮している渚を見ると、風間の胸に、無性に愛おしさがこみ上げてきた。 「今から取り掛かる事件がきっと円満に解決する予兆──ひゃっ……!?」  片手に渚の肩を、もう片手は後頭部に手を回して、風間はしばらく華奢な体を抱きしめながら、長い息を吐いた。 「え、なに、か、風間さん……?」 「五秒だけ。このまま」  風間は、この気持ちはなんなのだろうかとふと思い起こす時がある。  家族とは違う。相棒というにはギスギスした試しがない。恋人にしては時間を共有しすぎている。  夢の中では、うまく言葉にできたような気がしていたのに。  けっきょく風間は考えに考え抜いて、渚との距離感は『風間封悟と古代渚』なのだろうと結論づけた。  だがその感情は、善に対する身も心も焼き切れるような激情を()なければ、きっと気付かなかったものだ。  削りきれなかったプラトニックは昇華されて、また新しい感情に還元された。  体を離し、スマートフォンを持ったまま固まっていた渚に、風間は微笑んだ。 「ありがとう」  初めてうまく笑えたような気がした。 「ど、どういたしまして……」  渚は風間が離れた後も完全フリーズしたまま、ポツリとこぼす。 「五秒とは言わず、十秒でもよかったんですよ……?」 「はは」  風間はサイドブレーキを下ろした。 「行こうか」  車を発進させ、古代邸を後にした。 〔プラトニックは削れない 了〕
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