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「『安静』とは体を動かさずに静かにしていることですよ。私はこうしてベッドで安静にして、シルフィからいなくなったイブキくんを心配して、目撃情報をエゴサしているだけです」
「スマホをいじると脳が安静じゃない」
「でも熱も下がりましたし」渚はスマホの画面を風間に突きつけた。「それに、見てください。SNSで『熱を出した』とつぶやいたら、こんなに心配してくれる人がいるんですから」
風間は端末を手に取った。
『38.5度の発熱。初仕事を張り切りすぎました……』
SNSの渚のつぶやきに対し、大量のリプライが来ていた。大抵は『無理は禁物ですぞー』やら『お大事に』など、当たり障りのない会話ではある。
渚がネット上でつながっている知り合いについては、風間もある程度知っていた。なかには『○○たんペロペロ』や『○○しか勝たん』や『○○、そういうとこやぞ……』とアニメに対しての偏愛じみたつぶやきをする方々も多く、風間は渚にSNSを控えるよう言うべきか大いに迷ったことがある。彼らが渚を女性と勘違いしている節すら見受けられるからだ。
しかし、やんわりとした忠告のたび渚には、
「風間さんは電子機器やネットには疎いんですから! 私が大丈夫だと言ったら大丈夫なんですから!」
と反論されて、何も言えなくなる。
とにかく、まあ、渚が大丈夫だと自負しているし、病気を心配してくれるだけ善良な方々なのだろう。
「でも四六時中スマホを触っているなんて、もう中毒手前になっていないか? きみの頭脳に傷がつくようなことは、できればやめてほしいんだよ」
すると渚は、目をうるうると潤ませた。
「スマホを取り上げるのはつまり、私からお友達を奪うってことですよ。そんな残酷なことができるんですかっ」
「わかった、わかったよ。適度に休んでくれるなら、それで」
風間は降参して両手を挙げ、ついでに部屋を整理することにした。窓にほんの少し隙間のあったカーテンをぴっちりと閉め、渚が飲んだ頓服薬の袋と飲みさしのコップを下げ、洗濯に出す彼の服を拾い集めた。
当の本人はスマホに釘付けになりながら、声だけで風間に問いかける。
「あれから事件について、何か進展はありましたか?」
「まだないが、もうそろそろ解剖の結果が上がってくるはずだよ」
「解剖は……幸崎さんがするんでしたね、たしか」
風間が元倉から聞いた話だと、幸崎総一郎は、警察が解剖の嘱託をしているS大の法医学教室にいるのだそうだ。
「解剖結果が上がってきたら、資料を転送してもらうよう警察には頼んでいる」
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