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「おお怖い。それで、古代善を殺すために古代邸に侵入した父は……古代善に返り討ちにされたんですかね。あ、もしかして二人で殺しました? そして遺体を八王子の山中に埋めた……」
「違う」
風間が目をそらした瞬間、幸崎に顎をガッと掴まれ、そのまま後頭部を扉に打ち付けられた。
「違うと言うのなら僕の目を見ろよ、え。……失礼。では父は誰に殺されたんです?」
「知らない」
「あはは、まあ、たとえ自分が殺しても『はい』とは答えませんよね。僕が父の予備だと言ったからには」
風間は腰に隠していた携帯用の特殊警棒へ後ろ手を伸ばす。
「手を離してください。警察を呼びますよ」
幸崎はしばらく風間を睨みつけ、だが最後には視線を外し、顎から手を離した。
「あはは。そういうわけですから、また来ますよ風間さん」
そう言って、幸崎は今までのやりとりがまるでなかったかのように、古代邸の門に向かって背を向けた。
「でもね……警察を呼んで困るのは僕とあなた、どっちだと思います?」
そう言い残し、殺人鬼の息子は風間の前から消えた。
「……っ」
風間は茫然自失としたまま、手に持っていた資料を取り落とし、両手で前髪を思い切り掴んだ。
筒木肇失踪の直前、現場にいたのは風間封悟と、古代善と、古代渚だけだ。
善は自殺している。渚は当時六歳で、記憶はほとんど曖昧になりトラウマという形でブラックボックス化されている。
だとすると、白骨遺体として発見された筒木肇について事情聴取を真っ先にされるとしたら──筆頭容疑者になるとしたら、間違いなく風間だった。
時限爆弾は、正しく爆発した。風間の心を木っ端微塵にしてみせた。
「ぐっ……うぅっ……」
閉め切った扉にずるずるとへたりこみ、風間は呪詛の呻きを漏らした。
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