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「調べによると、人間の尾骨の表面が削り取られたものだそうです。現場に犬歯が抜け落ちていることから、イブキくんは、死体を埋めようと犯人が持っていた骨盤に噛み付いたものと私は推理します。犯人が防御姿勢をとったのなら自然そうなるはずです。その時に、強力なシェパードの歯が尾骨を噛み、表面を削った。それをイブキくんは誤って飲み込んでしまった」
「イブキの骨折は、もしかして犯人の抵抗によるもの?」
「おそらくそうでしょう」
渚の打てば響く答えが風間の耳をつく。
「犯人が、骨盤で前足を思い切り打ちつけたのではないかと思います。そうして骨折したイブキくんは、現場から逃げた……賢明だったと思いますよ」
遠くでパトカーのサイレンが聞こえたような気がした。風間や幸崎がその音を警戒する中、渚は追撃の手を緩めない。
「私は安田さんに、その小さすぎる骨の欠片が、現場にあった骨盤の尾骨の表面と一致するかどうか、改めて調べてもらうようにお願いしました」
渚はスマートフォンをしまうと、幸崎へとどめを刺すように強く顎を引いた。
「骨盤に傷はなかったそうですよ」
「っ……!」
「幸崎先生、あなたは遺体を仕込む際に、骨盤を念のため二つ用意していたのではないですか? 骨盤は男女の性差が最も出ますから、失敗はできないでしょう。〝予備〟です、あなたの大好きな」
幸崎がレシプロソーをぐっと握る音が、こちらにまで聞こえんばかりだった。
「遺体を遺棄した現場はライトを用いたとしても薄暗く、あなたは犬に噛まれた骨盤に目立った外傷を見つけられなかった。けれど念のため、解剖で虚偽申告が疑われないように、予備の骨盤を土に埋めたんです。今回はその周到さが仇になりましたね」
「犬ごときが……っ!」
「あなたが筒木肇を模したまったく別人の骨を用意し、あまつさえそれを使って筒木肇の白骨だと虚偽の申告をした、揺るぎない証拠です」
「──幸崎総一郎ッ!」
廃教会の遠く、浜辺から複数のスーツがこちらに走ってくるのが見えた。先頭は安田だ。
幸崎は地面を蹴った。警察と風間たちの反対側に逃げ出そうと足を踏み出す。風間は万が一にも渚に危害が加えられぬよう、渚の腕をとって一歩を引かせようとした。
その時、幸崎と目が合った。醜悪な笑み。どうして逃げて行く男と目が合うのだろうと思った矢先、幸崎は次の一歩をこちらに向けて踏み込んだ。
手にレシプロソーがある。包丁を持つように両手で掴んで先端を向けてくる。
何をしようとしたのか悟った時、風間は叫んでいた。
「渚──!」
肩を押しのけた。渚が悲鳴を上げて、倒れこむ。
光る刃がちらついたと同時に、腹に爆弾のような激痛がほとばしった。
「風間さんッ!」
音が消えた。視界が回転して、自分が仰向けに倒れたのだと知る。
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