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娘さんを宥めて話を聞く。
「かの者、スサノオに敗れ出雲へと落ち延びた八岐の大蛇が倅。母親の胎の内、三年の時を経て産まれ出でる時には髪も歯も揃い、四つの時分には大人と見紛うほどの韋丈夫となりし候。越後へと舞い戻った幼名は外道丸ぁ!!」
えぇ……
「比叡山にて伝教大師と渡り合うもそこは最澄、仙才鬼才の法力に辛くも敗れ、なればと京は大江山、次に挑むは弘法大師。十月十日の争い後、やはり空海。有智高才の法力に、またも敗れた外道丸。なればと一計を案じ、日の本全土の鬼共を従え力を溜める。長じた後、名乗るは酒呑童子。時は流れて今の世。さしもの最澄も歳月には勝てぬか。没した後に、すわ比叡山は延暦寺!強奪せしめんとまずは此の地に居座ったぁ!!角どーん!牙ばーん!筋肉モリモリマッチョメーン!サンダードカーンバリバリピッシャーオボロウレバロボロボロボロ!!!!!肉付きの良い女人のシシが好き。我も村の娘共も、痩せていたので助かったのです…」
「…………………………………」
「そして此の地にて!」
「もう良いもう良い」
絶句しているドッヂと3人のオジサン。唯一楽しそうに聞いていたリーダーサンが「よくもまあそんなポンポン出るな、ちょっと引くわ」と、娘さんの妄言を止める。
「まぁそれで良い。それで行こう」
「いえ、でも、でもここ、ここからがドッヂ様の…」
「いーいーいーいー。もう黙れ」
「…………ちぇー…………」
娘さん、えぇ……
「ふーむ、しかし……ここじゃ拙いな」
リーダーサンは少し逡巡して、
「こんなド田舎にそのような鬼が出るか。逆にしろ。弘法大師の方が良かろう。大江山。彼処を占拠した鬼を退治したとなれば大いに箔もつく。そうしろ」
誉れをたてんと、奸計を巡らす。
ニポン、コエェ。
「して、貴様だが………うむ、おい卜部」
オジサンは部下に向かって杯を突き出す。
「違う、注げという訳ではない。違くておい、あー、あの、なんつったか?山出しの身体だけでかい、あの男。昔連れて来たけどあんまりパッとしなかった、そう、坂田。ソイツ…」
オジサンの思惑は踊る。
「こいつアレと入れ替えよう。アイツが金時だから…………コイツ公時。コイツも我等と共に来た事にする。連れてって武者にしよう。首級はそこらの石包んどけ。封印だの呪いだの書いた紙を貼っておけば解かずに埋めるだろう。我等は5人で参った。良いな?良くない?何故だ卜部?え?四天王じゃなくなります?いや良いだろ。何かあるだろ、五芒星でも第六天魔王でも。え?それはもっと後です?何言っとるんだ貴様…」
シテンノー?なんそれ?
どうやらドッヂはオジサン達の一味になるようだ。オバケスイーパーになるのかな?ドッヂオバケ怖いんだけど大丈夫なのかな。
まぁ正直何でもいい。命あっての物種だ、どうにかなるだろう。
ならば、ドッヂが気にするのはあとひとつ…
「じゃあ我。そして我の配下が四人。四天王。それで良いか?釈然としない?煩いな、じゃあ貴様が抜けろ。卜部先帰れ。え?やだ?納得しました?うつけ、もう腹を切れ貴様…」
たったひとつ…
「ソイツには我の山伏衣装を着せろ。え?サイズ合わん?大丈夫だろ。だって我、鎧の上からソレ被ってたんだぞ。え?それでも合いません?デカイな貴様…」
ドッヂの気掛かり。
「チョトマテ下さい」
「ん?」
「チョ、チョマテヨ!」
「ああん?何だ?坂田でなく木村が良いのか?え?なんだ卜部ニヤニヤして。オマージュ?何を言っておる、今は長徳元年ぞ?こっちの方が古い。あっちがパクったのだ」
どうなろうとニポンに残るならドッヂは所詮、見せ物小屋。なんたってオーガだと思われていたのだから。でも、助かるならそれでいい。死なない、ごはん食べれる。十分。どんな風にみられてもドッヂは別に気にしないのだけど…
「娘さんはどーなりますか?キチンとした場所に。どうか…」
どうやらドッヂに食べられた事になっているらしい娘さん。良いとこのフロイラインでもないらしい。ドッヂと一緒にオバケ退治って訳にもいかないだろう。
「娘さん、ドッヂの命を助けました。キレイな場所にオネガイシマス…」
ドッヂの懇願に、でもリーダーサンは「ふん?」と鼻で笑う。
「表立っては中納言の娘で、村では喰われて死んだ事になっておる。それにまだ使う用もあるによって、ここに捨てる訳にもいかん。連れては行くが?」
「娘さん美しい。いいとこ、お嫁さん出来ない?」
「たわけ、貴様が娶れ。それが一番据わりがよかろう」
「ドッヂ、オーガに思われてた。一緒にいると娘さんも変にみられる。それ可哀想です」
「ふーん?」
リーダーサンは苦虫を噛み潰した様な顔をする。
「実につまらん事を気にするのぉ。うむ、つまりはその娘が美しいから、貴様みたいな化け物でなく良い場所に嫁がせて良い生活をさせろという事か?」
「はい、よろこんで」
「うむ、相分かった。貴様に良い話と悪い話をしよう。日本において、美女と呼ばれる女の眼は切長の一重だ」
ハキハキと喋るが、オジサンの顔は不機嫌そうな様な顔のまま。
「顔の形は福々とした瓜実顔。唇はふっくり膨らみ、良く笑う顎は下が少し前に出る。肉付きは良く、豊かな乳房、尻。それが美しい」
なんか苦手みたい、なんで?シャイボーイ?
「その娘は逆だ。目はギョロっとして顔も細い。身も細く骸骨のようである。つまり醜女だ。身分も低く、なにより鬼の呪いを受けておる。嫁の行先などありはしない。貴様のすっかり参ってしまったその娘に惚れるものは日の本にはおらん」
「………………」
「おう、腹がたつか?たったな?なら惚れている。貴様がどうにかしろ。鬼と骸骨。世に憚る立派な化け物夫婦である。朋友は、酷評すれど、シーソーキュー。そういう言葉もある。え?何だ卜部?ない?そうか。え?言い方?そんなだからモテません?うるさいな。この前のは練習だ。我次から本気だす。モテる数珠買ったし。え?どうせ次も袖にされます?卜部うるさいさっきから。もう貴様帰れ。え?今度?歌?くれるの?上手いやつ?卜部さん…………後でな。ゴホン、まあつまりそういうものだ。分かったか?分かったなら二度とつまらん事を申すな」
それでこの話はお終い。骸骨って、と娘さんをみると瞳がキラキラしてる。いいのかそれで。
「さあてこのまま、京で呑気に寝そべっている中納言殿に謁見賜るとしよう。表向きは娘を鬼に差し出し厄災を避けた、帝に忠する誉れ高き臣下となっておる。彼奴め、退治された後、しれっと救い出された事にしようとしたのであろう」
さっきの困った様な顔から一転、オジサンはとても愉しそうな顔で言う。
「中納言殿の娘を鬼の手より見事救いし候。しからばかの者に娘を嫁にやっては如何かと、我が言う。そうしたら二人して表をあげ中納言殿に顔を見せてやれ。きっと仰天するであろう。まっこと、動天するであろう」
半分くらい何言ってるか分からないが、さてはこのオジサン悪い奴だ。
「話を予め流布しておけば、最早本物と喚いたところで嫁にはやれまい。側女をダシに出世しようなどと企んだ罰じゃ、鬼に潰された呪われし家系じゃ。酒呑童子、いやさ坂田公時。貴様は伝統ある名家を凋落させし極悪非道の鬼である。愉快愉快」
呑もう、呑もうと盃を掲げる。
「さあ異国の船乗り、これで貴様は殿上人と相成った。娘、これで貴様は中納言の娘と成り代わる。数奇な事よ。どう転がるか、どう転がすか。愉しい、愉しいのう」
一番悪いオジサンはそう言ってまた、呵々と笑った。
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