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番組が放映されると「神回」と呼ばれ話題となった。
真琴はまだ現実に戻れず呆けていた。仕事でミスを繰り返し、今日も上司に怒鳴られた。覚束ない足取りで駅までの道のりを歩いていた。そんな時だった。
「真人間!」
聞き覚えのある声に顔を上げるとそこには誠がいた。
「え、え!?」
「お茶でも飲まない?」
誘われるまま真琴は誠の後をついて駅前の喫茶店に入った。
「先日はお疲れ様でした……いえ、結婚を控えた人が女性と喫茶店なんていいんですか?」
紀香の顔が浮かんだ。
「いいんだ。ヤラセだから」
「…………え!?」
誠は売れない役者だった。今回は主役としてテレビに出られると言われ出演したそうだ。
「他の出演者は?」
「ノリも役者だ」
「ノリちゃんも……」
ショックだった。全て仕組まれていたとは。
「他の参加者は一般人だ。その方がリアルで面白いだろうからって」
筋書きがあるとも知らず競わされていたとは。
「酷い。みんなが可哀想」
「悪いと思ってる。でもヤラセだってバラすわけにもいかないから謝りにも行けない」
「じゃあ何で私には話したの?」
誠は大きな体を小さくした。
「君に勇気を貰ったから、僕が諦めない人だって言ってくれたから。もう役者は諦めようと思っていたんだ。でも君の言葉で、もう一度頑張ろうと思ったんだ」
誠はまっすぐに真琴を見つめた。
「僕も真人間になる。ちゃんとした役者になるように頑張る。だから、これからの僕を見てて欲しいんだ。真琴に……」
誠はガラスの靴を真琴に捧げた。
〈終〉
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