マスクのままでも好きで居てくれますか?

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 梨沙とは高二の春、通っていた塾で出会った。少数のクラスということもあって僕たちはすぐに仲良くなった。  とはいえどこかに遊びに出かけたりすることはなく、授業前に学校であったことを話したり、休み時間に流行りの動画の話をしたり、授業後にわからなかったところを教え合ったり、全然関係のない話をしたりする程度だった。  それでも、週三回の塾の日が梨沙のおかげで楽しみになっていた。夏休みには夏期講習で僕と梨沙は毎日のように顔を合わせた。  梨沙と過ごす時間が何よりも楽しいと気付いた時にはすでに目元しか知らない彼女のことを好きになっていたのだろう。  そして今、夏期講習の最終日。授業が終わり教室には僕と梨沙の二人だけだった。立ち上がった彼女を呼び止めて、僕は思い切って梨沙に自分の気持ちを伝えたのだ。 「マスクのままでも好きで居てくれますか?」  もちろん梨沙のマスクの下を見たくないと言えば嘘になるし、何度か彼女の顔を見ようとしたことはあった。どれも失敗に終わったけれど。  でもそんなことはもうどうでも良かった。僕は彼女と一緒に居たいだけなのだと心からそう思えるし、見た目なんかじゃなくて僕は彼女の内面に惹かれたのだから。 「はい」  僕は少しの間を置いてから強く応えた。 「変なの」  自分に言ったのか僕に言ったのかはわからなかったけど、彼女が放ったその言葉をきっかけに僕たちは照れを隠すように大きく笑い合った。  こうして、互いの顔の半分以上を知らないままのおかしな交際が始まった。  
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