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二階フロアの一角に、フリースペースとカフェが併設された場所があった。
アトラクションがあるフロアはBGMが大音量で流れていたが、ここは音量を抑えているようで、減った分の賑やかさを人の話し声が埋めているようだった。
僕はカフェラテとホットドッグを、梨沙はなんとかフラペチーノという長ったるい名称の飲み物を慣れた様子で頼んでいた。
僕がテーブルを挟んで対面する形の席に座ろうとすると、梨沙が「あっちがいいよ」と言いながら窓際の横並びの席へと移動していった。
仕方なく僕は引いた椅子を元に戻して付いていく。
確かに景色を観ながらの方が良さそうだ。それに隣の方が距離が近くていいな、と邪な事を馬鹿みたいに考えていた。
けれど梨沙がこちらの席を勧めた本当の理由に気が付いたのは、彼女がなんとかフラペチーノを飲もうとした瞬間だった。
梨沙は僕とは反対方向に首を捻ってから、マスクを下にずらして一口啜ると、マスクを元に戻してこちらに振り向いた。なるほど、と僕は思う。
僕に顔を見られないように対面の席を避けたのだ。対面だと首を捻ろうと横から見えてしまうし、わざわざ後ろを振り向きながら飲むのもおかしな行動だ。
横並びであれば、横を向くだけでいいのだから、より自然だし合理的だった。そこまでして顔を見せたくないのだろうか。
ホットドッグを食べる時、僕は思い切ってマスクを外した。こちらが外せば梨沙の方も外しやすくなるのではないかという安易な考えだった。
顔を見られるのは少しだけ緊張したけれど、彼女は何も言わずそれまでと変わらない反応を見せた。
とはいえ僕の方は塾でも特に警戒していたわけではないので、飲食時や誰とも話していない時は外したりする時間もあったから、もしかすると彼女はすでに僕の顔を見ていた可能性はあった。
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