3人が本棚に入れています
本棚に追加
「美味しいよ。食べる?」
「ううん。いらない。ケチャップ付いてるよ」
僕の口元についたケチャップを梨沙の細い指が拭いとる。そんな彼女の行動にドキドキしながら僕はホットドッグを食べ進めた。
梨沙が再び先ほどの一連の動作を繰り返し、なんとかフラペチーノを啜る。
「マスク外さないの?」
「うん」
「そんなに僕にマスクの下見られるの嫌?」
単刀直入に聞いてみた。なんてデリカシーのない質問をしているのだろうかと聞いた後で後悔した。
「うん。嫌だ。絶対好きじゃなくなるもん」
マスクの下の頬が膨らむ。マスク越しでもその可愛さが僕の鼓動を急かす。
「そんな事ないって」
「あるの。未来くんが頭に描いてるマスクの下って未来くんの理想なの。だから未来くんは私のこと可愛いって想ってくれてるんでしょ?」
「そんな事ないよ。好きなんだから可愛いとは思ってるけど」
「実際は可愛くないんだよ」
「それは違うよ。梨沙のこと、可愛いから好きなんじゃなくて、好きだから可愛いと思えるんだよ」
「何よそれ」
梨沙は呟きながらあからさまに照れていた。僕は意図せず彼女を喜ばせたらしい。
「だから、梨沙の顔がどうであれ好きだから可愛いと思えるはずなんだよ」
「うーん。でもね、人って不完全な物を見ると自分の理想で補ってしまうって何かで読んだことがあるの。その理想に程遠い私を見た時の未来くんの反応が怖いの」
「だから変わらないってば」
「ううん。たとえ変わらなくても。たとえばその後何か別の理由で未来くんと別れる事になったとしても、私はやっぱり顔を見られたからだって思ってしまうと思うの。別れなくたって、何かある度にそう思ってしまうのが耐えられない」
「じゃあどうすればいいの? ずっとこのまま?」
「わがまま言ってもいい?」
手に持っていたなんとかフラペチーノをテーブルに置いて梨沙がこちらを見据えた。
「どうぞ」僕は続きを促す。
「もう大丈夫って思えるくらいに私の事を愛してほしい」
あまりにも真っ直ぐな目を向ける梨沙に負けないように僕も彼女の目を見つめた。梨沙の望みはとても簡単な事のように思えた。なぜなら僕は彼女の事を愛しているから。
「わかった」
「私いま、すごい恥ずかしいこと言ったよね?」梨沙が突然笑い出した。
「たぶんね」僕も笑う。
言われるまで気が付かなかったけれど、すごく恥ずかしい二人組だっただろう。
「もう。行こ。まだいっぱい乗ってないアトラクションあるんだから急いで」
梨沙が慌てて立ち上がる。僕もつられて立ち上がった。
二人だけの世界から突如現実に戻ったような感覚で、僕たちは喧騒の中に再び溶け込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!