捜査

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 ロビンとリリーは、すぐに現場に入った。  物の位置関係は昨日のままだ。  遺体のテッド氏を確かめる。  死後硬直が進んでいた。両足が不自然に開いたまま、動かない。  死後硬直は死後、1~3時間で顎関節などに発現し、上肢関節へは3~5時間、下肢関節には6~8時間で進展する。その後、全身の関節に波及し、死後1日から1日半持続する。  暖かい部屋で死亡したため、やや早く硬直が進むが、死亡時刻は午後9時と断定しても良いだろう。  死体あさりをするようで気が引けるが、男性の上等なコートをまくり、ポケットに手を入れる。小さなノートが見つかった。急いで内容を確認する。 『これがあれば眠らずとも仕事ができる。7つの財宝とはこのことだったのか。明日、パラケルスス・クラブで無理にでも買い取ろう』  直近のメモには達筆で、こう書かれていた。    ロビンには全く意味が分からない。いそいそとノートをポケットに戻した。  もう一度、遺体を良く見分する。わずかに金髪が乱れている。後頭部に手を回すと、盛り上がりがあり、コブがあった。 「リリー、もう一度、死因を確かめてくれないか。できれば、頭の中に血腫があったのかどうかの検出も頼む」 「タダでか?」  リリーが不満そうな声を上げた。 「分かったよ。好きなだけ吸っていい」  ロビンは腕まくりをした。  リリーの顔がぱっと明るくなる。  リリーの小さな顔が近づき、キスをするように二の腕に噛みついた。痛みは無い。生気が抜けるような感覚と、わずかな快感の波が訪れる。 「美味しかったぞ。では、仕事にかかろう」  リリーは唇の端から流れ落ちた、赤い血液をドレスのそでで拭い、妖艶に笑った。  リリーはかがみこみ、遺体の額にキスをするように牙を立てる。そのまましばし、瞑目した。 「ふう」  リリーが顔を上げる。 「頭蓋骨の中には何も無しじゃ。死因は不完全燃焼のガスが原因じゃな」  硬膜下血種が増大しての死は除外された。テッド氏の死因は中毒死とみて間違いない。 「それより、面白いことがあるぞ。遺体の髪の毛に、砂糖がついておった。お菓子でもこぼしたかのう?」 「砂糖? バカな」  自分の頭上にお菓子を落とす大人などいないだろう。 「嘘だと思うのなら、自分で確かめてみるのじゃな」  リリーはへそを曲げたように、ツン、とした口調で言った。  仕方がない。自分でやるか。  ロビンは決意したが、どうにも髪の毛を舐めるのには嫌悪感があった。横目でリリーを見る。この少女にもっと酷いことをやらせているのだから、自分も頑張らねばなるまい。  ロビンはかがんだ。整髪料の臭いが鼻につくが、呼吸を止めて我慢した。後頭部の腫れの付近を、軽く舐めてみる。微かな甘味があった。恐らく砂糖なのだろう。  なぜ砂糖が付着しているのか。この死と関係があるのか。  今考えていても仕方がない。  続いて、暖炉を確認する。昨夜、アーロン氏が火かき棒で乱暴に扱い、4人がかりで水をかけたため、石炭がごちゃごちゃとかき混ぜられている。
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