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前世の記憶
深い深い海の底。ガラスのように透き通った水と、白い砂、珊瑚の森を色とりどりの魚たちが泳ぎ回っております。
人魚の住む城は、そんな海の深い水底にあります。
人魚の王様には6人の娘がいて、揃いも揃って美しいお姫様でした。中でも末娘が一番美しく、真珠のように白くスベスベとした肌と、海のように澄んだ青い瞳をしておりました。
――って私、何で人魚になった?
いや、違うか。人魚の私――メッテに前世の記憶が蘇ってきたんだ。現に、生まれてきてからこれまでの記憶はきちんとある。
いつも通り朝食を食べ終わって運動でも、と思って城を出て散歩をしていたら、海底火山の噴火に巻き込まれたんだっけ。
吹き飛ばされて頭を思いっきり打ち付けて気絶。目が覚める時には前世の事を思い出していたというわけだ。
さっき思い出した記憶によると、前世の私は社会人3年目。友達と海辺に遊びに来ていたら、波にさらわれた少年を助けようとうとしてお陀仏となった。
ちょっと泳ぎが得意だったからってライフセーバーでもあるまいし、無謀な真似をしてしまった。一緒に来ていた友達は救助を呼んだのかな。ちゃんとあの少年は助かったのかな。もう知る由もない。
それにしても溺れて死んだと思ったら、まさか人魚に生まれ変わるとはねぇ。
これは俗に言う、異世界転生と言うやつなのでは?
異世界転生と言えば悪役令嬢とかチート能力持った奴に生まれ変わるでしょ!
何で私は人魚になんてなっちゃったのよ。下半身お魚ちゃんじゃない!
まあ最近ではスライムに転生するくらいだから、上半身だけでも人の姿しているだけマシか。
ふー、落ち着いて記憶を整理しよう。
今の私は人魚の王様の娘で、6人姉妹の末っ子。お母様は小さい頃に亡くなって、お祖母様がいる。歌が上手くて、難波した船から落ちてきた大理石で出来た少年の像を持っている……
あれ……? この世界はもしかして、もしかすると、あの有名な童話「人魚姫」の世界なのでは。
そして私は、ラストで泡になって風の精霊になったあの、人魚姫なのでは?!
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