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『あの……やっぱり、お仕事の依頼はいただけないんですか?』
ママ友が紹介してくれた「自宅で出来る高収入の仕事」――内職斡旋会社のサイトでは、機材が届いたら、まず会員登録をして、早い人だと翌月には仕事の依頼が来ると書かれていた。ところが実際は、会員登録をするには、まず専用ソフトで課題を幾つかこなさなければならないという。その課題で合格点に達しないと会員登録が出来ず、あたしは既に3回も落ちている。
『はい。残念ですが、フジモト様は今回、合格点に3点足りておりません。次回の登録試験は10日後ですので、頑張ってください』
ルールは分かっていても、ダメ元でかけてしまったコールセンター。案の定、マニュアル通りの回答だった。
評価ポイントは、速さと正確さ以外にもあるらしい。課題をいくら頑張っても、なかなかスタートラインにすら立てない。それなのに、初期投資で購入した機器と専用ソフトの支払いは始まっていて、毎月5万円が引き落とされている。登録試験にさえ合格すれば、すぐに元は取れる筈なのに。
「課題の受講料っていうのが別途かかってね……割のいい仕事を安定してもらうには、その資格を取らなくちゃいけないの」
ママは、無言で2つ目の豆大福に手を伸ばす。あたしが言わんとするオチを察して、今から渋い顔で牽制しているのだ。
「資格を取るまでの間なの。そんなに長くはかからないから、それまで……ちゃんと返すから、30万円、お願いできないかしら」
「30万円?」
「仕事がもらえたら、2、3ヶ月で返せるから! お願い、ママ!」
「でもねぇ……ユキヤさんは知っているの?」
「話したけど……元々余り賛成してくれなかったから……」
「そう。内緒で始めたのね」
「だって! あの人は、自分の趣味で車を買ったのよ? あたしがユイの送り迎えにも使えるようなミニバンで良いじゃないって言ったのに、燃費の悪いスポーツカーみたいなのに決めちゃって……!」
『自分で稼いだ金なんだから良いだろう!』――そう言われたら、反論出来なかった。ずるい。家事も育児も、あたしが全部こなしているから、彼はコスパに合わない部活動なんかに専念できるのに。
「はいはい、分かったわよ。今回だけだからね」
あたしの愚痴は聞きたくないと言うように、あからさまに掌をパタパタ振ると、ママは立ち上がって和室に消えた。聞こえよがしに大きく溜め息を吐きながら。
情けない。悔しい。……でも、良かった。これで当分は頑張れる。ちゃっちゃと登録試験に合格して、資格を取って、ダンナに内緒の貯金を作るんだ。たまにはママ友とホテルランチをしたり、エステに行ったり……あたしだって“自分で稼いだお金”でプチ贅沢をしてやるんだから!
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