黒猫と天使。

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 それから彼らは、財布の持ち主を探し歩いた。  エルトルは時々、商店の隙間や軒の上などよく分からない所を覗き込んでいる。  ちらほらと見回りの兵の姿が増えて来て、ドロップはフードを目深に被った。  ドロップは財布の持ち主がどんな少女だったのか改めて尋ねてみた。  エルトルの話によると、髪は艶やかな薄い桃色で腰ほどに長く垂れていたという。やはり淡い桃色のワンピースを身につけており、シルフォールの街に慣れていない様子だったらしい。老爺と別れた後は、人波に飲まれるようにあっという間に遠ざかっていってしまったという。  それから一時間近く経っているのだから、相手もそろそろ財布が無いことに気付いただろう。もしかしたらどこかの詰め所にいるかもしれない。 「あ、いた」  不意にエルトルが声を上げた。視線は遥か上方に向けられている。ドロップが手をかざして空を見上げると、建物の廂から飛び出した何かが空に黒い染みを作った。黒い手毬のようなそれは見る間に降りてきて、狙いすましたようにエルトルの肩に飛び乗った。 「んにっ、にっ!」 「おかえり、モノクロ」  黒い、猫のような生き物だった。丸々した体に、頭部の区別もなく尖った耳と瞳やらがついている。細長い尻尾らしきものは見えるが、四肢の存在は見た目には確認できない。猫に似ているが、おおよそドロップの知る猫とは異なっていた。 「それ、魔物……とも違うな。魔獣?」 「正解。……か、どうかは実は僕もわからない。小さい時に迷子になってたのを拾ってさ。初めは僕も猫だと思ってたんだよ」  互いに頬をすり寄せあって、仲の良さを窺える。モノクロと名付けられたそれは、嬉しげな短い鳴き声を何度ももらしていた。  普通、魔物が人間になつくことはない。その成り立ちには諸説あるが、端的に言えば魔物は人間を襲うために生まれたものであるとされている。そして魔獣は魔物を産み出すために利用された生物の起源であるとも言われている。  通常、魔獣は別の次元に存在しているとされ、人間の住む世界に姿を見せることはほとんどない。モノクロのように、ヒトと共生することを選ぶ個体はレアケースだろう。 「ドロップくん。モノクロが見つけてくれたみたい。この先の広場にいるって」 「そう。ありがとう、モノクロ」  微笑みかけるとモノクロはそれは嬉しそうに大きく「にっ!」と鳴いた。
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