始める日。

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 ふと目を覚ますと、まだあたりは薄暗かった。  だが窓から見える遠くの空が少し白み始めている。王子は頬にこぼれる銀糸の髪を払って、寝台を抜け出した。  窓の下には手入れされた庭園が見える。  その奥の一角は壁に囲われ、隔壁から頭を覗かせるように一本の木が枝葉を茂らせていた。  王子は愛おしむように視線を送ってぽつりと呟く。 「懐かしい夢を見たんだ。あれは君と初めて会った時だね」  それから寝台の下に手を突っ込み、何やら荷物と包みを取り出すと、寝巻きを脱いだ。  包みの中は、王子が身につけるには地味で簡素な黒い旅装が入っていた。慣れた手つきで身支度を整え、愛刀を携えると、悪戯めいた微笑みが鏡に映っていた。 「もうこれは今日しかないってことだ」  そして物音を立てないよう慎重に窓を開けると、彼はひらりと窓から飛び降りた。
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