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商店が途切れ、少し人波が薄くなったところでドロップは前方の人物を呼び止めた。
「目の当たりにしたからには見過ごせなくてね」
前の人はぴたりと足を止め、躊躇いなく振り返った。
目が覚めるような青い髪の間から大きな瞳がドロップを捉える。少女とも少年ともつかぬ顔立ちをしていた。だがその左頬には傷のような大きな刺青が入っている。少女だとしたら少し残念だと、ドロップは思った。
「なぁんだ、バレちゃったの。僕の腕も落ちたかなー」
僕、と自称するので彼とする。
彼はミッドナイトブルーに金糸の刺繍が美しい外套の中から、おおよそ不釣り合いな可愛らしいビーズ細工の財布を取り出した。
「なかなか演技派のスリなんだね」
「心外だなぁ。僕は親切心から自分の手を汚したってのに」
不可解なことを言いながら彼は腰に手をやって、口を尖らせた。可愛らしい財布を突き出すと話し始めた。
「これ、元の持ち主は女の子。いかにも田舎から出て来ましたって感じの純朴そうなね」
彼の言い分としてはこうだ。
少し前、脚の悪い老爺を憐れに思った少女が手を貸していたのだという。そしてその時に老爺が少女から財布を抜き取ったのだと。つまり、弱者のフリをした老爺こそがスリであると言うのだ。
「……と、いう言い訳とも取れる」
ドロップはじっと少年を見つめた。
彼の言っていることが真実だとも思う。しかし逆に口が回りすぎて怪しくも思える雰囲気を、少年は持っているようにも見えた。
そんな風に思われていることを察してか、少年は不敵に笑った。
「じゃあさぁ。僕と一緒に持ち主の子、探してよ。そうすれば疑いは晴れるでしょ?」
「いや、そうはしたいけど。きちんと返すつもりがあるなら、兵の詰め所に届けてくれ。僕はそこまで付き合えない」
時間がない、そう思っていた。すると少年はにやりと笑って、ドロップのそばに寄り耳元で囁いた。
「僕なら君を街の外へ出してあげられるよ」
ぎょっとして飛びすさり、右手の指輪を確かめるように身構えた。だが警告は何もない。
少年は小首を傾げて笑んでいた。
「疑いはちゃんと晴らしてくれないと僕の気が済まないんだよねぇ」
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