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通りを見回して歩きながら、彼は語る。
「本職は記者でさぁ」
まだちょっとむくれた様子が感じられる。スリ扱いされたのは余程嫌だったらしい。
「だからもちろん君のことはすぐわかったんだよねぇ。王子が度々お忍びで街を歩いてるのは、仲間内では有名な話だしね」
「そう」
「それでその旅装でしょ? お城はなんだかいつもと様子が違う。ああ、これは何かやる気だって」
「それで。君が僕に手を貸す理由は?」
警戒を解かずにドロップは彼の様子を見守った。彼は特に思案することもなくあっけらかんと答えた。
「面白そうだから」
しかし顔は言葉のわりに冷静だった。
「僕はゴシップは書かないんだけど、正直、王子の出奔なんていいネタになりそうだし。もしそれで君の身に何かあっても、別に僕は困らないしね。フランシス国が傾くなら別の所に行けばいい」
「正直すぎるでしょ」
いっそ清々しいとドロップは思った。
「わかった。少しの間、協力しよう。名前は?」
そこで初めて彼は考える様子を見せた。だがついには口を開いた。
「仕事しにくいからあまり名乗りたくないんだけど。ま、嘘ついてもすぐ調べなんてついちゃうだろうしね。僕はエルトル。それと8172……」
口早に何かの数字を言い放った。ドロップは落ち着いてそれを書き記す。数えてみると10桁の数字だった。
「……ヴァレアの」
西の工業で栄える国の名前がドロップの口をついて出た。
今から十年ほど前、国民に識別番号を割り振り、家系から前歴あらゆる情報をデータベース化し、国民を管理する法が実験的に施行された。
犯罪行為の抑制や職の適正化など正しく作用した面もあるにはあった。だがその一方で不利益を被る国民が圧倒的に多かったことから、数年で廃止された制度だ。だがいまだにデータは残っていて問題視されている。
「調べてもらって構わないよ。ろくでもない人間って分かるだけだけどね。その記録が残ってるおかげで、まず日の当たる仕事につけやしない」
「これは本当に、ヴァレア最大の悪手だった」
「そう思ってくれるなら、君はより良い国づくりをしてね。僕たち下々の人間を生かすも殺すも君たち次第でしょ?」
「肝に銘じるよ」
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