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プロローグ
走るのには、何もいらない。
街の中に駆け出して、路地の向こう側へ。
世界が崩壊して何年も過ぎた。
あれから世界には、雨が降っている。
決して止むことがない雨が。
雨水が宙に舞い、透き通った道端の雫が、すれ違う風の中で光る。
スニーカーの紐は結んだままだ。
いつだってそうだった。
私たちは、雨上がりの先に見える青空を目指し、どこまでも全力で走っていた。
明日空が晴れると信じて、どれだけの時間が流れただろう?
明日雨が上がると信じて、どれだけの距離を進んだだろう?
今日はもうやって来ない。
それは運命だった。
運命が、空から落ちてきたんだ。
今日と明日の境目に閉じた、時間と空間の果てに。
いちについて、よーい
グラウンドの上で、ホイッスルが鳴る。
地面に足をつけ、静寂の糸を解く1秒。
一瞬の向こう側へと続く「今」を待ち、永遠が、——もうすぐそこまで。
“走れ”
と、彼女は言った。
だから私は足を動かしたんだ。
明日へと届く白線の外側へ、キミと一緒に。
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