AM 10:30

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AM 10:30

 あなたのしあわせをいのらせて。  手を繋がれ、氷高の上着を借りて羽織っていた。何も言わず、足の向きは氷高の家へ向かっている。 「腹減った……コンビニ寄りたい」  氷高の呟きに、自然とコンビニへ身体が向いた。 「炭澤は?」  パンコーナーへ行き、氷高がこちらを見る。私は首を振る。 「お腹減ってない」 「ちゃんと食えよ」 「さっき牛丼大盛り食べた」  あー、なるほど。氷高は一人納得した顔をする。私はドリンクコーナーからコーヒーを取ってカゴへ入れようとした。  それが氷高の手によって棚に戻され、その隣にあったいちごオレが入れられた。一部始終を見ていると、顔がこちらを向く。 「炭澤を探しに出たけど何処にもいなくて、急に駅に現れたから何してたんかなとは思ってた」 「牛丼食べてた。それより、コーヒー」 「カフェインの過剰摂取は良くない」 「先生みたいなこと言うし……」 「あと薄着もやめてくれ」 「お父さんか……」 「あ、挨拶」  思い出したように息を吸う。それに驚き、顔を見上げると目が合った。 「炭澤家に挨拶行かねえと」 「氷高、よく喋るね」 「俺たちは圧倒的に話し合い不足だってよく分かったから。日程聞いといて。合わせる」  確かに話し合いは不足していた。というか、大事なことを何も言えないでいた。  家に氷高が来る想像をする。そういえば見たことのない、スーツ姿で。  なんかこっちが緊張してくる。胸の辺りを擦りながら、氷高の会計を雑誌コーナーの前で待った。  会計を終えた氷高にお礼を言い、レジ袋を持とうとすると遠ざけられ、結局手を掴まれた。 「あ、」とまた何か思い出したようで、私の手を引っ張って雑誌の方へ近付く。その分厚い冊子の表紙に書かれた『両家挨拶の準備!』の文字を指して、 「買っとくか」  と呟いた。  その生真面目さに、思わず笑い、なんだか涙が出て止まらなかった。 Let me pray. 20230222 おしまい。
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