PM 9:30

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PM 9:30

 取った手は温かくて、離し難かった。  高校の友人の飲み会に行ったら、同窓会になっていた。想像したより規模が大きい座敷に同じクラスだった面々がいる。 「なんか色々声かけたらこんなになっちった」  幹事をやってる友人がケロッと言っていた。まあ幹事が大変じゃないならそれで良いが。  俺は生ビールを飲みながらそれを聞く。 「にしても、よくこんだけ連絡先知ってたな」 「知ってる奴に知ってる奴へ連絡入れてもらった」 「ね」  ネズミ講の才能あんじゃねえか、と言い留まる。 「ね?」 「いや、炭澤(すみざわ)いねえなと思って」 「あー確か、尾方(おがた)がメッセージのアカウント消えて連絡取れないって言ってた気がする」  炭澤那津(なつ)は、髪色が派手で楽天家で明るい人間だった。教室で笑い声が起きると大抵その中心の方にいて、誰だろうと巻き込んでいく女子だった。  でもこういう学校外の集まりには殆ど来ないイメージがある。誰かが話題に出すと「今日バイトだって」やら「彼氏とデートだって」やら声が聞こえた。 「氷高、今銀行員なん?」 「出世して偉くなれよー」  クラスメートに言われ、曖昧に笑う。偉くなったその先に何があるのか分からない。あまり興味は無かった。
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