14人が本棚に入れています
本棚に追加
ひどーい、と言うわりに笑う声は明るく、そこまで興味は無かったんだろうと分かる。
「炭澤のアカウント消えて連絡取れないって言ってた」
『あーそっか、携帯壊れてから誰とも連絡取ってなかった』
駅に近づくと人通りが増えた。遠くからこちらへ近づく救急車のサイレンの音。なんとなく耳を澄ませていると、電話の向こうからも同じ音が聞こえた。
「お前、今どこ?」
『え? 駅の近く……』
すっと道が開けたように、その背中が見えた。スマホを耳に当てて、一瞬立ち止まる。
その肩に触れる。
「『びっくりした』」
「こっちの台詞だ」
振り返った炭澤に高校の頃の面影が見えて不意に泣きそうになる。元から綺麗な顔だったけれど、それ以上に美しくなっていた。
美しいって、人に使う言葉なのか。
「この近くでやってた?」
「ああ、歓楽街の居酒屋。二次会なら今から、」
「ううん、いい」
ひらひらと手を振った。
明るいくせに、冷たい。炭澤の根本は変わっていない。
振った手で耳に髪をかける。金色のピアスが見え、指輪が見えた。細い中指にそれが光る。
「じゃあ、飲みに行く?」
「え、二人で?」
「二人で」
断られても良い、と思いながら提案した。アルコールが背中を押してくれた。押してくれたのがこれで良かった、と思う。
炭澤は微笑んだ。
「うん、行く」
最初のコメントを投稿しよう!