PM 9:30

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 ひどーい、と言うわりに笑う声は明るく、そこまで興味は無かったんだろうと分かる。 「炭澤のアカウント消えて連絡取れないって言ってた」 『あーそっか、携帯壊れてから誰とも連絡取ってなかった』  駅に近づくと人通りが増えた。遠くからこちらへ近づく救急車のサイレンの音。なんとなく耳を澄ませていると、電話の向こうからも同じ音が聞こえた。 「お前、今どこ?」 『え? 駅の近く……』  すっと道が開けたように、その背中が見えた。スマホを耳に当てて、一瞬立ち止まる。  その肩に触れる。 「『びっくりした』」 「こっちの台詞だ」  振り返った炭澤に高校の頃の面影が見えて不意に泣きそうになる。元から綺麗な顔だったけれど、それ以上に美しくなっていた。  美しいって、人に使う言葉なのか。 「この近くでやってた?」 「ああ、歓楽街の居酒屋。二次会なら今から、」 「ううん、いい」  ひらひらと手を振った。  明るいくせに、冷たい。炭澤の根本は変わっていない。  振った手で耳に髪をかける。金色のピアスが見え、指輪が見えた。細い中指にそれが光る。 「じゃあ、飲みに行く?」 「え、二人で?」 「二人で」  断られても良い、と思いながら提案した。アルコールが背中を押してくれた。押してくれたのがこれで良かった、と思う。  炭澤は微笑んだ。 「うん、行く」
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