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炭澤はそれが気に入らなかったようで腕で払われた。
「いらない」
「炭澤」
目が合わない。顎を両手でつかんで持ち上げた。ぐっと上を向かされた炭澤は嫌そうな顔をする。
「じゃあ、相手紹介して」
「……するわけないでしょ」
「責任取れって俺が言う」
「氷高にそんな権利ない」
権利がない。耳が痛い、でも。
「なんでそんなに辛そうなんだよ」
苛つきが喉元までこみ上げる。炭澤が泣いているのが見えて、それは引っ込んだ。
「誰の子、なんて聞く氷高にそんなこと言われたくない」
どん、と肩を殴られた。なかなか痛い。
「ばか、ばか、ばーか!」
泣きながら悪態をつき、俺の肩を殴ってくる。やっと安堵できて、その背中を抱き込んだ。腕の中は炭澤は泣きながら、最後には背中に手を回してくれた。
「氷高の他に、好きな人なんていないもん」
ぐずぐずと泣きながら炭澤は可愛いことを言ってくる。
「……なんでそれを今朝言わねえんだよ……」
「誰の子か分かんないまま、一生苦しめば良いと思った」
「すげえ恨んでんじゃん」
「嘘だよ」
何が嘘だよ、と思いながらも俺も炭澤の肩口から顔を上げられないまま。
休日の昼前の駅の隅で、俺たちは何をしてんだろうと思いつつも。
「責任なんて、取らなくて良いよ」
墨澤の言葉にぐっと腕の力が強まる。
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