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AM 6:30
重たいのは身体か、心か、それとも愛か。
ベッドの下に落ちている下着を持ち上げて、身に着ける。背中のホックをつけ終えると、後ろから声がかかる。
「帰んの?」
く、と喉の奥が鳴った気がした。無意識に。
勇気、降りてこい。
上にあるのかも分かりやしない勇気を降ろして、私は振り向いた。
「うん」
「まだ早い……送ってく」
気怠そうに身体を起こしながら、氷高がスマホで時間を確認している。いつもと変わらないその様子に、へにゃりと勇気が折り曲がる。
「つーか、明日休みなら」
「もう会わない」
勇気は言葉となる。
それに安堵して、傍に畳んであったニットを着た。もう、大丈夫。
「なんで?」
その純粋な質問に、息を吸って、
「子供が出来たから」
吐くだけ。
氷高の方を見たのは賭けだった。自分でもどちらにかけているのか分からない。誰が損をして、誰が得をするのか。
「誰の?」
ひく、と喉の奥が痙攣した。
それでも笑えたことが奇跡だと思う。
「氷高の子じゃない。安心して」
もう顔は見られなかった。立ち上がり、鞄を持つ。
安心してよ。
認知してとか頼まないし。
もう会わないし。
身体だけの関係で、それ以上もそれ以下もない。私とあなたの間には。
もう、何もない。
ただ、あなたのしあわせをいのらせて。
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