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2 怪物
私は村で指示された通りに、眼下の山道を監視していた。連邦政府の部隊には、〝射手座人〟と〝牡牛座人〟という、二種類の危険な異星種族が加わっているという。
その名前は、両種族の母星がある方角からつけられた。銀河系の中心方向と、その反対側に近い方向だ。これは昔、ジョー・ホールドマンという作家が書いたSF小説に因む命名法だ。
異星種族と接触した後も、空想科学小説は廃れなかった。むしろ異星人が提供する高度な技術で、どんな社会を作るべきかを考える時に役立つ、啓発的な文化として評価されたのだ。今にして思えば、アーサー・チャールズ・クラークの『幼年期の終わり』などは、かなり予言的だったね。もちろん当時の私には、そんなことを考える余裕はなかったが……。
二つの種族はどちらも人類と同じ途上種族だったが、旧帝国側に利用される形で活動した。文明開発省も気づかぬ間に、両者は不自然に急速な軍事的発展を遂げて、恒星間を渡れる宇宙艦隊を整備していた。そしてまさに人類が新帝国に加盟した直後、挟み撃つように地球へ艦隊を送り、襲撃を図ったのだ。この〝地球侵攻〟は新帝国艦隊の展開と示威行動により、間一髪で防がれたと発表されたが、事件の後で公開された二種族の実態に、人類は恐怖した。
〝射手座人〟は、人間大の蟷螂のような種族だ。その生育過程では、数十人生まれる子供のうち数名しか生き残らず、時には弱い父親さえ犠牲になるような、厳しい淘汰が行われる。〝牡牛座人〟は、子象ほどもある蟹のような種族だ。固定した性別を持たず、環境が良い時は雌となって多数の卵を産み、環境が悪化すると狂暴な雄になって戦争を求めることが多い。
両種族はどちらも恐るべき怪物として報道され、〝射手座人〟は〝死神〟、〝牡牛座人〟は〝獣〟と呼ばれて忌み嫌われた。新帝国に懐疑的な人々の中には、両者がサタンと内通しており、地球防衛は自作自演だったのではないかという意見もあった。
そんな時、私の両親はある団体から入会の誘いを受けた。サタンはやはり悪魔であると主張する団体で、その責任者は様々な奇跡を起こし、天使さえ呼び出して見せた。そこで両親は幼い私を連れて、その団体が作った村に移住した。
しばらく経つと、人類が〝射手座人〟及び〝牡牛座人〟と和平条約を結び、協力関係に入ったという発表があった。しかしそうした政策も、村ではサタンの悪魔説を裏付ける、忌まわしい決定として受け取られた。かくして十数年後、私は神様の最後の砦を守るため、奴等を待ち受けていたというわけだ。
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