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ウチは平凡な家庭だ。父は普通のサラリーマンで母はパート、俺は普通の高校に進学し、妹も地元中学に通っている。全員が特に突出した何かが有る訳でもなく、かといって何かが絶望的に足りないわけではない。そんな平凡な一家だった。
そんな日々の中で、父が体調を崩した。胃がんだった。45歳と若かったが、発見が遅かった上に進行が速いらしく、手の施しようがなかった。家族全員が代わる代わるお見舞いに行き、最期は全員で看取った。
ある日、俺が見舞ったときのことが思い出される。まだ高校生とはいえ人間としてはまだ幼かった俺は堪えられず父に聞いてしまった。「こんな歳で死ぬのは辛くないのか」と。父は
「三人分の人生を生きてやったから大往生だ」
と冗談交じりに明るく笑っていた。あの父は、もういない。家の中は悲しみに包まれていたが、これは騒動の始まりに過ぎなかった。
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