◆私の夫 * 弥衣

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「まあさ、とりあえずの飲みなよ」と言って、一俊はワインをボトルを頼んだ。  店の雰囲気に惹かれてよく考えずに入ったが、レストランとはいえレストランバーだった。よく見ればカウンターの奥にはお酒が並んでいる。 「あ、ちょっと、あんたはダメだからね」 「わかってるよ。俺はノンアルコールカクテル頼んだ」 「そういえばさ、優介さん婚約したらしいよ」 「え? そうなの?」 「よかったじゃん。姉ちゃんさ、知らなかっただろうけど、優介さんって金と権力に弱いんだよ。良くいえば上昇志向も強いってやつ。うちに金があった時はよかったんだろうけどな。姉ちゃんと同じだけ金のことも好きだったんだろうな」 「ふん。なにそれ。全然わっかんない」  尊さんは? もし尊さんが貧乏だったらどうだったかな。  どっちみち私なんて相手にしてくれないよね?  結婚したのも指輪のせいなんだもの。 「一俊、私さあ、今からでもやり直せるよね? 事務職とか就けるかな」 「は? 何言ってんだよ。働くの?」 「だってさ、一回も定職についたことないしさ。知ってる? 尊さんの秘書、ハルミさんっていうんだけど、すっごい美人で、頭よさそうで感じも良くてさ」 「今度はやきもちか」 「そんなんじゃないよ。事実を言ってるの!」 「はいはい」  アレキサンドライトの指輪がない私なんて、もう路傍の石なんだ。  尊さんを繋ぎとめる魅力もないし。尊さんとハルミさん、すっごくお似合いで、尊さんはきっとああいうシュッとした感じの、できる女が好きなんだと思うんだ。  ちゃんとした家族になりたかった。  抱いてくれたけど、あれは私がそうしてほしかったから尊さんが合わせてくれただけ。  指輪は尊さんのものだった。  お母さん、尊さんをずっと思ってた。日記を読んで涙が止まらなかったよ。  私、尊さんに合わせる顔がない。 「働いてさあ、お金返したいんだ……。尊さんに」  一俊はうんうんって言いながら話を聞いてくれた。  イケメンの弟をもって、私はうれしいよ。 「大丈夫か?」  あんたってばこうして見ると、本当に尊さんによく似ているよね。  すーっと鼻が高いところとか、凛々しい口元とかさ、そっくりだ。
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