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「まあさ、とりあえずの飲みなよ」と言って、一俊はワインをボトルを頼んだ。
店の雰囲気に惹かれてよく考えずに入ったが、レストランとはいえレストランバーだった。よく見ればカウンターの奥にはお酒が並んでいる。
「あ、ちょっと、あんたはダメだからね」
「わかってるよ。俺はノンアルコールカクテル頼んだ」
「そういえばさ、優介さん婚約したらしいよ」
「え? そうなの?」
「よかったじゃん。姉ちゃんさ、知らなかっただろうけど、優介さんって金と権力に弱いんだよ。良くいえば上昇志向も強いってやつ。うちに金があった時はよかったんだろうけどな。姉ちゃんと同じだけ金のことも好きだったんだろうな」
「ふん。なにそれ。全然わっかんない」
尊さんは? もし尊さんが貧乏だったらどうだったかな。
どっちみち私なんて相手にしてくれないよね?
結婚したのも指輪のせいなんだもの。
「一俊、私さあ、今からでもやり直せるよね? 事務職とか就けるかな」
「は? 何言ってんだよ。働くの?」
「だってさ、一回も定職についたことないしさ。知ってる? 尊さんの秘書、ハルミさんっていうんだけど、すっごい美人で、頭よさそうで感じも良くてさ」
「今度はやきもちか」
「そんなんじゃないよ。事実を言ってるの!」
「はいはい」
アレキサンドライトの指輪がない私なんて、もう路傍の石なんだ。
尊さんを繋ぎとめる魅力もないし。尊さんとハルミさん、すっごくお似合いで、尊さんはきっとああいうシュッとした感じの、できる女が好きなんだと思うんだ。
ちゃんとした家族になりたかった。
抱いてくれたけど、あれは私がそうしてほしかったから尊さんが合わせてくれただけ。
指輪は尊さんのものだった。
お母さん、尊さんをずっと思ってた。日記を読んで涙が止まらなかったよ。
私、尊さんに合わせる顔がない。
「働いてさあ、お金返したいんだ……。尊さんに」
一俊はうんうんって言いながら話を聞いてくれた。
イケメンの弟をもって、私はうれしいよ。
「大丈夫か?」
あんたってばこうして見ると、本当に尊さんによく似ているよね。
すーっと鼻が高いところとか、凛々しい口元とかさ、そっくりだ。
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