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私の母、佐藤智子享年五十五歳。
優しくて明るい母だった。
父が経営していた事業が失敗し、失意の中、父が病で倒れてあっという間に亡くなったのが三年前。そのまま父の会社は倒産。悲しむ間もなく残された借金の清算に追われて、母までもが父の後を追うように倒れてしまった。
辛かっただろうにそんなそぶりも見せなかった母は、相当我慢していたに違いない。入院したときにはすでに手遅れで、看病の甲斐なく闘病生活半年というあっけない幕切れだった。
寂しい葬儀だった。
最初から家族葬とは伝えてあったものの訪れる人は少なくて、親戚すらほとんど参列してくれなかった。
家にお金があるときは、呼ばなくても人が集まって来た。
来てくれるだけでいいのに。別にお金を貸してなんて言わないのにな。薄情な親戚どもめ。
そんなことを思い、月城さんと話をする前に、私はすっかり気分が落ち込んでしまう。
「はぁ……」
気を取り直してお茶を入れ、百均で買ったトレイに湯呑を乗せて居間に入ると、彼は振り向いた。
それまで彼はずっと遺影を見つめていたようだ。
なにはともあれ、彼は母の死を悼み、わざわざお線香をあげにきてくれたのだもの。私もうれしいし母もきっと喜んでいるに違いないので、まずはお礼の気持ちを伝える。
「本日はありがとうございます」
一応故人の娘だと名乗り、ついでに聞いてみた。
「あの、失礼ですが、遠縁とはどういう?」
さもありなんという感じで、彼が薄く苦笑する。
「驚かれますよね」
「あ、ああ、すみません。母から聞いたことがなかったもので」
「そうでしょうね。もうすっかり縁が切れていましたから。智子さんは優しい方だったと聞いています。私が子供の頃よく遊んでもらったそうで」
そう言って彼はふわりと柔らかい微笑みを浮かべた。
うわっ……。すっごく綺麗な人。
あらためて見た彼は、目のやり場に困るほどほど端正な顔立ちをしていた。
遠縁とはいえ血がつながっているからなのか、目元も口元もとても美しかった母に似ている。
亡くなった母も、人形のように色白でとても美しい人だった。
私の弟、一俊は亡くなった母の血を継いでいるので、彼はどこか弟にも似ているようにも見える。
弟は子供の頃から綺麗な顔をしていて、どこにいっても女の子に人気があった。
でも、私は違う。
可愛いとは言われても美人だとは言われない。その差は大きい。
身長一五六センチやや痩せ気味。
目は大きくも小さくもないが、鼻は低いし口は小さい。とりたてて特徴のない平凡な顔。髪は伸ばしっぱなしのロングで、後ろに縛っている。
二十五歳なのに、化粧をしなければいつまでも大学生に見られてしまう。要するに子どもっぽい。
キリリとした美人と言われる女性に憧れているが、残念ながら現実はかけ離れている。
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