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「実はあの……、私と母は血の繋がりがないのです。私が三歳の時に母が父と再婚しまして」
「そうでしたか。――もしかして義理の母ということで弥衣さんは苦労されたとか?」
「え? いえいえとんでもない」
その点は絶対に誤解されたくないので、強く否定した。
「私の実の母は、私を産んですぐ亡くなってしまって。私にとっての母は智子さんなんです。とても優しい母でした。血の繋がりに関係なくとても可愛がってくれて。本当に大好きな母なんです」
優しいだけでなく、厳しくもあり強い人だった。
病床でも辛い表情は一切せずに、『心配しないで』と逆に励ましてくれた母。
『こうなってしまったけれど、私は幸せ者よ。お父さんは本当に優しい人だったし家族にも恵まれたから。弥衣、笑顔を忘れないで。どんな時も笑顔を忘れちゃ駄目よ』
辛い毎日でも、いつも笑っていた母。
あ、まずい。
うっかり視界が涙で歪みそうになる。
慌てて湯飲み茶碗に手を伸ばしてお茶を飲み、お茶を濁すってこれを言うのかな? などと思っていると。
彼が「実は」と切り出した。
顔をあげると彼もお茶を飲んでいたらしく、湯飲みをテーブルに置いたところだった。
「お悔みの他に、お伺いしたいことがありまして」
「はい?」
「失礼ですが、智子さんの遺品の中に、月城の指輪がございませんでしたしょうか」
「月城の、指輪? と言いますと」
「アレキサンドライトがついた指輪です」
「アレキ、サンド、ライト?」
「ええ。光によって色が変化する石です。グリーンや赤や」
えっ!
そう聞いた途端に胸の奥がヒヤッとして、思わず視線を泳がせた。
光によって色が変わる石。彼が言っている指輪は恐らく、チェーンに通して今私の首にさげてある。
「えっと……、どうだったかなぁ」
ゴクリと喉の奥が鳴る。彼に聞こえるんじゃないかと思うくらい響いた気がして怖かった。
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