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前日の夜
気が付いたら、夏祭りが開催される日になっていた。
私はお兄ちゃんに酷い事をしちゃったから、幾ら約束していたと言っても断られるかなと思ったけれど、頑張って一緒に行こうと誘ってみたら彼はOKしてくれた。
折角だから、浴衣を着ようかどうしようか迷ったけれど、兄妹で一緒にお祭りに行くのに変だと思われるかなって考えて、ちょっと大人びた紺色のスカートに半袖の柄の入ったブラウスにした。
その夏祭り当日の事はよく覚えていない。
覚えているのは、彼に「可愛いね。」って褒められた事。
なんだかお兄ちゃんの眼差しが熱くて、折角買ってもらった綿あめの味がよく分らなかった事。
お祭りにいた無邪気に手を繋いだり、腕を組んでいるカップル達がすごく羨ましかった事。
それぐらいしか覚えていなくてー。
でも、それだけでも、私達がお互いに恋をしているんだと分からせるには充分過ぎた。
そうして、とうとうお兄ちゃんが帰ってしまう前日の夜になっていた。
私は廊下にばったり会った彼に思わず、こう言っていた。
「ねえ、本当にもう帰っちゃうの。もっとここに居ればいいのに。」
「すごい可愛い事言うな。そんな事を香に言われると、ずっとここに居たくなる。でも、もう帰らないと留学の準備が間に合わないよ。」
その時、私は留学も何もかも放り出して、ずっと一緒に居てと言いたかった。
でも、どうしてもそんな事言えなくて代わりに、
「じゃあ、最後に私と二人で海に行こうよ。」
と言ったのだった。
すると、お兄ちゃんは「いいよ。行こうぜ。」と言ってくれたのだった。
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