前日の夜

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本当は私は海でお兄ちゃんと二人だけになったら告白するつもりだった。 あなたが好きですって。 でも、実際に彼と海辺で二人きりになると、どうしても言えなかった。 お兄ちゃんと恋人同士になれたとして、お母さんや他の人にバレたら? いつか彼は私を彼女にしたのを後悔しない? 友達にも言えないような関係を持つの? もし、子供が出来たらどうするの? そんな何もかもが怖くて口が動かなかったのだ。 「香、俺はお前が、」 だから、だから、私は恐らくお兄ちゃんが告白しようとしてくれたのを遮って、こう言った。 「お兄ちゃん、もうお別れだから抱き締めてよ。」 私達は兄妹だからキスは出来ないし、誰が見ているか分からない所で恋人同士みたいにイチャイチャする事も出来ない。 でも、長い間離れ離れになる前の日の夜に抱き締め合う位はしてもいいよね。 そんな私の気持ちが伝わったのか、彼は強く抱き締めてくれた。 お兄ちゃんの体温は熱くて、それが何処か物悲しかった。 私達はそのままお母さんの待つ家に戻って、次の日に彼は帰って行ってしまった。 私はお兄ちゃんがいないのが寂しくて堪らないけれど、この告白すら出来なかった恋の名残を抱えて、毎日を過ごして行きたいと思っている。
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