海へ

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「うわ!本当に海だ!」 お兄ちゃんはそう言って、海の中に入って行った。 私からすると見慣れている海でも、彼にしては珍しいものなのだろう。 随分テンションが高い。 お兄ちゃんは何も気にしないで、あっさりと水着姿になっていたけれど、私はスカートに半袖姿だ。勿論、日焼け止めはばっちり塗ってあるし、帽子も被っている。 「はー。泳いだ。泳いだ。香、凄いぞ!海の中に魚が沢山いる!お前も水着になって、潜ってみれば良いのに!」 「私はいいよ!ここの海って同級生の男達も来たりするから恥ずかしいの。」 「そっかー。乙女心って奴だな。」 これは半分嘘だ。今更、同級生の男の子に水着姿を見られたとしても、何とも思わない。でも、彼の水着姿になるのは、どうしても恥ずかしくて無理だった。 私たちがそんな会話をしていた時だった。 「お、羽山じゃん。そっちの男とデート?」 同じクラスの冬川くんが声を掛けてきたのだ。 この人は偶に話す位の関係だけれど、野球が死ぬ程好きで話し出したら止まらない以外の所は、まあ接しやすくて良い人だと思う。 「違う!違う!この人は私のお兄ちゃん!デートじゃない。」 「え、羽山って兄貴なんていたの?そんなの聞いた事もないけれど。」 「そこは複雑な家庭の事情って奴があるのよ。察して!」 私が一から全部説明するのが面倒でそう言うと、お兄ちゃんはそれに乗っかって「どうも。複雑な家庭の事情がある香の兄です。」と言って頭を下げてくれた。 すると、冬川くんは「ごめん。俺、デリカシーなくて。兄貴と仲良くな。」と言って、行ってしまった。 そんな彼の姿を見て、なんとなくお兄ちゃんと顔を合わせて、クスクスと笑ってしまった。
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