27-1

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 試合日程と組み合わせが決まった。練習前、部室に曜さんを除く全員を集めた。曜さんには要項が書かれた紙を渡せば十分で、今はほぼ和食さん向けの説明だ。 「日程は八月最終の土日。場所は区立体育館。例年通りだから和食さん以外は大丈夫だね」  車座になっているみんなの顔見ると全員が頷いた。 「和食さん、質問はある?」 「大丈夫です」  去年までは明賀先輩が説明してくれていた。今年の部長はあたしだから、説明するのは当然の成り行きだ。  これで最後か、みたいな感慨は不思議と浮かんでこない。当時の明賀先輩はどんな気持ちだったのだろうか。 「で、組み合わせだけど……」  今回も一日目は四ブロックに分かれて勝ち抜き方式の予選を行う。翌日、代表四校が総当たり戦で優勝を争う。前回のベスト4は各ブロックに配置されるため、前回の優勝校である銀渓といきなり当たることはない。組み合わせの関係上、当たるのは最後だ。ここが最大の山場でかつ、高校最後の試合となる。一回戦はなんと東谷高校で、三年連続だ。なんとも因果なものだ。  参加校は全部で一六校、去年はあったシード権が今年はなくなっている。どこかの高校で人が集まらずに廃部になってしまったようだ。マイナースポーツの難しさを垣間見た気がする。  あたしは一通り説明を終え、特に質問がなさそうだったのでさっさと練習に移った。  あたしの気合いは十分だ。いや、あたしだけじゃない。千屋さんも、北原さんも、和食さんも。試合に出るにはまだまだな和食さんもあたしたちの空気に当てられてか熱心に練習している。  千屋さんに至っては鬼気迫るという表現がぴったりで、あたしですら練習中に声をかけるのをためらうときがある。たぶんあたしもそんな表情をしているかもしれない。休憩中は努めてリラックスするようにした。後輩に変に気を使わせたくなかった。  大学生との三日間の試合はほとんど負けなかった。つまり、少しは負けた。千屋さんはよほど悔しかったのか、それからさらに強くなった気がする。具体的にどこが、とは言えないが。  試合前日は軽く午前中だけの練習になった。帰ってからのトレーニングも厳禁だと曜さんにキツく言われた。  家に帰ってシャワーを浴び、ベッドの上に飛び込んだ。手持ち無沙汰な感じがする。ずっと寝ても起きてもセパタクローのことばっかりだったからだ。  明日は試合だ。  高校最後の。  試合会場に来るのはこれで三度目だ。会場までは迷うこともなかったし、大会独特の空気にものまれることはなかった。  会場に着いたときからあたしたちの中で和食さんが一番緊張していた。 「試合に出ないのに変ですよね。でもこれが最後だと思うと」 「来年は出るんだから、よく見ておいて。そしてこの空気を肌で感じて」  千屋さんも北原さんも口数が普段より少ないが、緊張しているわけではないのはよく分かる。いい感じに集中している。  通り一遍の開会式を終え、第一試合のあたしたちはコートへ向かった。  アリーナの端を歩いていると、向こうから銀渓高校の三人がやってきた。去年あたしたちに勝ち、四連覇中の因縁の相手だ。白を基調としたユニフォームで、どこか貫禄がある。  先頭を歩くあたしは目線を正面に据えたまま通り過ぎた。ライバルだからといって敵意を剥き出しにしたりはしない。  ふと背中に感じていた気配が薄くなり、後ろを向くと曜さんと北原さんが去りゆく銀渓高校の背中を見つめていた。その様子を千屋さんは怪訝そうに見ていた。 「どうしたんですか?」  あたしの声に曜さんが我に返った。 「ちょっとね。試合終わったら話すよ」  北原さんは固まったままだ。千屋さんが北原さんの顔の前で右腕を大きく動かした。ここにきて珍しいものを見た気がする。 「知り合いがいたもので……」  北原さんの顔と声は明らかに浮かなかったが、それはすぐになりを潜めた。  銀渓は仙台の高校だ。北原さんは仙台出身だから、知り合いというのは北原さんの幼馴染みだろう。中学のとき北原さんが不慮の事故で視力低下を引き起こしてしまった相手だ。  十時に第一試合、つまりあたしたちの試合が始まった。  北原さんが少し心配だったが、すぐに普段通りに戻り、あたしは安心した。  試合開始直前にネット際で握手をした。そのときの東谷高校三人の目は燃えていた。二年連続であたしたちに負けている。今年こそは、と力が入っている顔だ。  それでもあたしたちは危なげなくストレート勝ちして、日本一へ好発進を切った。
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