花実来果恋の生きる道

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花実来果恋の生きる道

 目を覚ますと、恋焦がれてきた人がいた。花実来果恋はそっと、できるかぎりそっと、愛しの葉山さんの胸板に顔をしずめる。例え夢であったとしても、この幸せに溺れたかった。  葉山さんの手が優しく髪をなでてくれる。果恋は少し上目づかいに、見上げると葉山さんはまだ眠っていた。でも。葉山さんの首筋にはゼラニウムの花びらのような赤く愛の証が残っている。 「夢じゃない」 果恋は幸せを我慢することができずに、足をバタバタさせる。三蹴り目で壁の絵がずり落ちてきた。瞬時に起き上がり、片手で絵を受け止める。  夢じゃない。夢じゃないのだ。  小学生の頃からずっと憧れていた葉山幸村さん。ハンカチと制服を頼りに探し出すも、幸村が苗字ではなく下の名前であることに気づかず、最初の一年はたどり着くことができなかった。苗字がわかった頃には、花実来家が田舎に道場を開くために引っ越しをすることとなったので、こっそり会いに行くことすら難しくなった。それでも、ヒッチハイクをして会いに行ったり、空手や華道で全国的に有名になり、ネットワークをはることで葉山さんの消息をなんとかたどることができた。 「もう一回キスしていいかしら。でも葉山さんが起きる前に顔洗って身支度ととのえなくちゃ。でも今の無防備な葉山さんをもっと眺めていたい。あぁ、どうしましょう」 今度は煩悩に悶えて頭を枕にうずめる。勢いあまって、ベッドがトランポリンのように激しくゆれた。 「あ、またやってしまった。せっかく葉山さんが特注のベッドに替えてくれたのに。弁償することになってしまいますわ」 「朝から元気だね。おはよう、果恋」 無駄にベッドを抑えようとしていたところ葉山さんが起きてしまったので、ほっぺがチューリップのように真っ赤になる。 「お、おはようございます、葉山さん」 「あれ、下の名前で呼んでくれないの?」 そうだったのだ。昨夜ベッドの中で約束したのだ。二人だけの時は下の名前で呼び合おうと。
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