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「たしかに最初は頭がよくてかっこよくて金持ちの次男坊だと思ってみてました」
「やっぱりそうなんだ」
わかっていたけれど、実際に言葉で聞くとやはり刺さるものがある。
「でも今は違うんです。クールなふりして優しいところも、冷たいようで包容力があるところも、淡々としているようで仕事に熱いところも、他人と深く関わらないようにしているようで結局面倒見がいいところも、無表情なようでたまに見せる笑顔が雪解け後に咲くスノードロップのように貴重で可愛らしいところも、全部全部大好きなんです」
半分は悪口である。
「今日だってラグジュアリーでロマンティックなデートかと思えば、天然なところもあるし、お金の話になるなんて思ってもみませんでした。葉山さんは私といるとペースが乱されてワクワクするって言ってくれましたが、私も葉山さんといると葉山さんのペースに巻き込まれてます。でもそれがすごくうれしくて、もう葉山さんなしじゃ生きられないんです。だから、告白してくださった時覚悟を決めたんです。葉山さんと人生を歩めるのなら、道場は捨てると」
あの時のあの沈黙にそんな覚悟が秘められていたとは。
「捨てなくていいよ。幸せのために大切なものをあきらめるのも、大切なもののために幸せをあきらめるのもナンセンスだよ。俺たち二人が知恵をふりしぼれば両方守れるよ。俺たちの知恵とあざとさと狡猾さこざかしさと」
「最後の方は余計です」
そう言って笑う花実来さんはラナンキュラスのように幸せそうである。
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