160人が本棚に入れています
本棚に追加
17.飯島瞬&沢裕介
「瞬、どしたの?」
「え?いや」
「知り合いでもいた?」
「違うけど、ちょっと」
「なになに」
「今、そこのケースの前にいただろ、俺たちと同じくらいの年の人」
「・・・・・・いた?」
「何も見えてねえな」
「選ぶのに必死だったんだよ」
瞬は少し黙ってから、ぼそりと言った。
「・・・・・・・あの人、二人分指輪買っていったんだよ」
瞬と裕介は女性客の多い中、ふたりで買い物に来た。男二人で指輪を買いに来て、裕介が思いの外あっけらかんとしていたのは幸運だった。それは一線を越えてからのことで、なにやら腹が決まったように見える。そのおかげで瞬も助けられていた。
「二人分?」
「そう、俺たちが見てたやつの横に、メンズラインあったろ。あれ」
その客はひとしきり悩んで、「これとこれ」と言ってサイズ近いの指輪を買って行った。連れがいない状態で男物のアクセサリーを二人分買っていけるハートの強さ。瞬はそれに感心していた。
裕介は瞬が考えていることと全く同じことを口に出した。
「ハート強いね」
「・・・・・・だな」
「俺らはさ、一緒にいるからなんとなく心強いけど」
「ひとりじゃ・・・・・・しんどいな、いろいろ」
「そうだね」
裕介はごくごく小さな声で、同じ状況の人に初めて会った、とつぶやいた。ゲイである瞬の周りには「仲間」が多いが、裕介の状況ならいたしかなたい。
「あ、でもさ」
「うん?」
「俺の友達、聡太ってやつの話、前にしただろ」
「ああ・・・・・・・」
「聡太の彼氏さんもさ、俺と同じらしいよ。男性とつき合うの、初めてだって」
「会ったことあるのか?」
「会うって言うか、見た、くらい。少し離れたところで、待ち合わせしてる二人を見たんだ。幸せそうだった」
「・・・・・・お前は?」
「え?」
「幸せか?俺といて」
裕介は目を見開いた。そして急に表情を曇らせたかと思うと、瞬から視線を外して言った。
「そんなこと、指輪買ったあと聞く?」
「裕介・・・・・・・」
「幸せじゃなかったら一緒に買い物になんか来ないよ。いまさら何言ってんの」
「そうか」
「そうだよ」
「だよな、昨夜あんなに・・・・・・」
「ちょっと!!」
裕介の顔が一気に真っ赤になった。
「そういうのマジでやめてもらえる?!」
「悪い悪い、つい」
「お前は少し恥じらいを持てよな!」
「恥じらいはあるぞ?幸せだと忘れちゃうだけで」
「瞬ってそんなタイプだったっけ?!」
裕介はぷりぷりしながらも笑っていて、照れ隠しなのがよくわかった。瞬は頬がゆるむのをこらえられず、そっと裕介の背中に腕を回した。
雑踏の中、自分たちの関係がどう見られてもかまわないと思えた。
最初のコメントを投稿しよう!