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八木くんに振られたあと、僕が校門をくぐるとそこには友人の榎戸が待っていた。
「蓑島! 一緒に帰ろうぜ」
「うん。待っててくれてありがとう、榎戸」
榎戸は僕が八木くんに片想いをしていて毎月告白していることを知っている。そして十回目の今日の告白で振られたら、僕が八木くんのことを諦めるって決めていたことも。
榎戸は「ちょっと話そうぜ」と僕に寄り道を勧めてきた。僕も同意して、ふたりで近くの公園のベンチに座り、話し込む。
「あー、そういやさ……告白、どうだった?」
榎戸は僕が傷つかないように、何気ない様子で訊ねてきた。僕の様子を見て、榎戸は既に結果を察していたのかもしれない。
「ダメだった……。でも、わかってたことだから……」
僕はなるべく明るい声を出したつもりだ。でも、気がついたら涙が溢れていた。
「……ぼ、僕っ、もう八木くんのこと諦めなくちゃ……」
僕は嗚咽混じりになり、上手く話せない。
あんなに好きだった人を諦めるなんてこと、できるかな……。
この十ヶ月という期間は、僕にとっての十ヶ月だったと思う。
一度告白して振られたくらいじゃ、八木くんのことを諦めきれない。僕は十ヶ月間八木くんへの告白を繰り返しながら、少しずつ自分の気持ちに折り合いをつけようとしていたんだ。
「ゔぇっ……ぐずっ……」
それでもダメだった。八木くんを諦めなきゃって考えただけで涙が出るよ。
こんなに好きなのに、諦めるなんて……。
「蓑島はよく頑張ったよ……」
榎戸は今までの僕を労うように僕の肩を優しくぽんぽんと叩いた。
「えの、きど……」
僕はどうしても何かに縋りつきたくなって、榎戸の胸の中に飛び込んで泣いた。榎戸は優しくてそんな僕の背中をさすりながら慰めてくれた。
さようなら、八木くん。
嫌な顔ひとつせず、僕の告白を十回も聞いてくれてありがとう。
最後のほうは、僕に呼び出された時点で気がついていたよね。だって八木くんはまたかって顔してたもの。
それでも優しい八木くんは毎月三日に「俺は今日の放課後、体育館の裏で蓑島を待ってればいいんだよね?」って笑顔で応えてくれた。僕はそんな八木くんにも心惹かれてしまったな……。
「八木くん……っ!」
ああ、八木くんの笑顔を思い出してまた涙が溢れてくる。
今、僕を抱き締めてくれているのは榎戸だとわかっているのに、僕は八木くんの名前を呼んで榎戸の胸の中で泣いた。
「蓑島……」
榎戸はそんなどうしようもない僕を優しく迎え入れてくれた。榎戸の腕の中はすごく温かかった。
そういえば榎戸とこんなに抱き合うのも初めてだ。榎戸は友達だけど、まるで僕を大切な恋人みたいに優しく包み込んでくれた。
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