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次の日、学校で信じられない噂が流れていた。
あの八木くんが振られたという噂だ。
僕もその噂を耳にして「あり得ないだろ!」と思わず叫んでしまった。
だってだって、あの八木くんだ。僕なら八木くんに告白されたら喜んでOKする。
あの八木くんを振るなんて、世の中にはなんて贅沢な人間がいるんだろう。
「体育館の裏で八木くんがずっと待ってたのに、その人は現れなかったらしいよ」
体育館の裏。懐かしいな……。
僕が八木くんを呼び出したのに、八木くんのほうが先に体育館の裏にいて、僕を待っていてくれたときもあった。
僕が慌てて駆け寄って「待たせてごめんっ」と八木くんに謝ると、八木くんは「いつまでも待つ気だったよ」なんて僕の頭を慰めるようにぽんぽんしてくれたことがあった。
あのときの八木くんの優しい手の感触は今でも忘れない。
あんな素敵な人に呼び出されて、いつまでも待たせて結局現れないなんてなんて酷い人なんだ。
告白を断るなら断るで、八木くんみたいにちゃんと誠意を持って断ればいいのに!
噂の張本人、八木くんが教室にやってきた。来た途端に八木くんの周りは人だかりだ。
みんな噂の真相を知りたがっているみたい。
僕もめちゃくちゃ気になる。八木くんが本当に振られたのか、そして八木くんの好きな人はいったい誰なのか。
でも八木くんに直接訊く勇気なんてない。
僕は教室の隅にある自分の席に座ったまま動けない。ひとり英単語を勉強しているフリをしながら、じっとみんなの噂話に耳を澄ましていた。
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